2021年7月をもって、英国のKing’s College LondonのDepartment of War Studies, International Relations (戦争研究学部)を卒業いたしました。卒業後は国家公務員として外務省に就職いたします。日本の高校から直接英国大学に進学し、4年間の留学を無事終えて卒業出来たこと、また当初に掲げたように国家公務員として日本の安全保障に関われる人材になるという目標を追い続けさせていただけたことは、江副記念リクルート財団の4年間の多大な支援のおかげであると深く感謝しております。
私が当初より掲げている目標は、日本にとって好ましい安全保障環境を創出するために貢献できる人材になることです。私は自身が、日本の平和と安全がどのように創られているか知ることが出来ず、何も出来ずに生きていくことに危機感や不安、物足りなさを感じ続けることになるだろうと考えておりました。そのため自身で日本の安全保障を知り、考え、議論し、実際に行動出来る人になりたいと強く願い、日本の平和と安全を創る最前線に立つことで日本の安全保障を知ることが出来る、実際に行動出来る公務員を志望しておりました。
中高生の時より国家公務員を志望している中で、国家公務員は同じ大学、学部、ゼミを経た人が多いと知り、同じような経験を積み、考え方を培った人に偏りすぎると、国家がどうあるべきかを考え、日本のかたちを考え、政策をつくる際にも偏りが生じるのではないかという問題意識を持つようになりました。そのため、違う価値観、経験を持って自分に付加価値をつけ、その状況に一石投じることが出来ないかと考えたことが国家公務員を志しながら留学を希望した理由でありました。
また同時に、中高生の頃に日米関係について問題意識を持っておりました。日本と米国の関係の緊密さによって、日本は日本の望む国際関係を構築出来ていないのではないか等と考え、米国以外から日本の国際関係を考える視点を得たいと感じるようになりました。また、米国に留学する職員の多さや米国との密接な関係により、米国の視点を持った人は多いと考え、それ以外の視点を持つためにも米国以外で学びたいと考えておりました。
偶然King’s College LondonのPatalano教授が東アジアと日本の安全保障を専門にされていらっしゃることを知り、彼の本を読む中で日本に詳しいPatalano教授はどのように日本の安全保障を見ていらっしゃるのだろうと興味を持ちました。彼の所属大学を調べる中で、彼の授業を学部2年生から取れることを知り、また内容も東アジアの安全保障、特に日本と中国についての授業をされていることを知りました。彼のカリキュラムを見て、この授業を好んで選択するような学生達はその学習を通して東アジアの安全保障にどのような考えを持つのか興味を持ち、話してみたい、議論してみたいと考えるようになりました。彼の授業の中で、クラスメイトと様々な事を話し合える環境があることに強く心が惹かれ、King’s College London、海外大学への進学を考えるようになりました。また、日本と似た要素(例えば米国との緊密さ等)のある英国で学べることは多いのではないか、ちょうど正に欧州から離脱する英国で国際関係を学ぶことは面白いのではないか、日英、または日欧で今後関係は発展しうるのか考えられるようになるのではないか等の学問的好奇心と、その他の治安の良さ等の面も含めて、英国のKing’s College Londonへの留学を志すようになりました。
英国King’s College Londonで過ごす中で、様々な事を経験し、学び、成長することが出来ました。4年間学んでいく中で、結果的には留学前の考えや期待は大変良い意味で半分当たり、半分外れていたと感じております。
留学前に期待していたように、“英国”の“King’s College London”で学べたことは多くありました。
欧州から離脱する英国では様々な国内問題、国際事情が浮き彫りになり、英国にとって難しい時期であると感じることが多くありました。そのような貴重な時期に英国で学ぶことが出来たことで様々な学びを得たと感じております。特に、欧州から離脱する中でどのように今後欧州と関係を持つのか、今後どのように英国の国際関係を創るのか、地域、国際社会においてどのような役割を果たすのか、そのようなことを英国が離脱中から考え、政策の方向転換をしていることを強く実感出来たことは得難い経験でした。そのような英国の方向転換では、英国の対外政策が国際的な役割への重視や対中認識の変化等に因って変わり、インド太平洋に重きを置くようになったと感じております。日本の重視するインド太平洋を通して、日本との関係も今後より発展する可能性が高いと考えられる中、これまでの学びによって得た知識や視点が日英関係を考える材料となっております。英国の欧州からの離脱の中で得た様々な学びや、英国と日本の関係の深化について考えられるようになったことは、留学前の期待以上に自身にとって大事な成果であり、英国に留学していたからこそ得られたものだと考えております。
King’s College Londonで学んでいたからこそ得られた視点や学びも大変多くあります。第一に、英国の上記の方向転換に英国のIntegrated Reviewにおいて関わっていたPatalano教授の授業をとっていたために、上記のような変化について強く実感できたのだと思っております。第二に、欧米関係、米国、欧州や英国と東アジアの関係について、また欧州と東アジアそのものについての多くの知識と視点を得られたことは、地域専攻の東アジアについて、米国の安全保障政策と外交や大西洋関係について、欧州の英国の視点から深く学べたおかげであると感じております。欧州から国際社会全体、また東アジア、日本を見るという視点は、留学前の期待以上に面白く、重要な視点であると考えております。第三に、東アジアの地域専攻をとった他国の学生の意見を聞くことはやはり大変面白く、貴重な機会でした。尖閣諸島について中国人のクラスメイトとプレゼンテーションをしたことを含め、日々の授業でも考えさせられる経験を幾度も持てました。毎週のセミナーで安全保障について中国人、韓国人、台湾人、香港人、シンガポール人、アメリカ人、ドイツ人、イギリス人、等の多国の学生と話す中で、それぞれの視点や意識の違いを感じることが多々ありました。特にその中でも、やはり中国人のクラスメイトと安全保障について、米国について、中国と日本の国内・対外政策について感じていることを話す中で得られた気付きは大きかったと思います。それ以外にも多くの学びがありましたが、留学前に期待していたことは幸運にもこのように予想以上に自身の財産となっております。
留学前に考えてもいなかった視点を得られたのは、米国との関係についてでした。米国が国際社会において、欧州において、東アジアにおいてどのような立場で役割を担っているのか、どのような二国間、多国間の国際関係を築いているのか、そういったことを学ぶ中で、留学前には感じていなかった日米同盟の価値を感じるようになりました。日本でも、米国でもなく、英国から、英米、欧米の関係、その他の国々と米国の関係を見れたことによって、日米関係が日本の財産でもあると感じられるようになったと感じております。その他にも、留学前の自身の考えの浅さを感じることは度々ありましたが、そのように感じるたびに留学を通じて自身が成長し変化していると実感することが出来ました。
また、留学の経験によって、人としても様々な成長を果たせたと考えております。この4年間は私の人生にとって大変重要であり、大人になる成長過程を英国で過ごしたように感じております。
数ある成長の中でも、様々な考え方や意識を持つ人がいることを肌で感じ、学べたことが一番の成長であるように感じます。自身が当たり前だと思っている常識も、知識も、価値観も、それは私にとっての感じ方であり、全ての人が違う考え方を持っていると深い実感を持てるようになりました。国籍や環境、世代等多くの要素によってそもそも大きな違いがあり、また近いバックグラウンドがあったとしても、それぞれ個人が持つ考えや意識は異なっていると思っております。このように思えたことによって、相手はどのような考えを持っているのか、何故そのような考えを持っているのか考えるようになり、自身の考えを押し付けず、相手のバックグラウンドや考えを鑑みたコミュニケーションを取れるようになったと考えております。これは日本人同士のコミュニケーションでも重要であると感じております。似た環境に育った人が多いからこそ相手も同じような考えを持っているはずだという思い込みを持たずに、相手が個人としてどのような考えを持っているのかと先入観なくコミュニケーションを取る意識に繋がりました。
また、当たり前のことではありますが、世の中には自身の知らない様々な世界があり、そこに様々な人が存在し、世界には知らないことが溢れていると感じられるようになったことも、自身の人生においては重要な成長であったのではないかと思います。インターネットで様々なことにアクセス出来たとしても、知識よりも深い実感が必要なことは多く、またそもそも知ることの出来ないことは無限にあり、自身が何かについて詳しいと考えていたとしても、全てを知っていると考えることは勿論出来ないのだろうと思っております。そのように思うことで、他の人の考えがどのような考えか興味を持ち、尊重し、自身の知識や考えについて謙虚であり続けるべきだと感じられるようになったと考えております。
就職活動を通して自身の留学経験を客観的に捉えられることが多く、その中での自身の成長を感じる場面も多々ありました。
留学の最後の約1年半は新型コロナによって対面の授業が出来ませんでしたが、通学等の時間が浮いた分、オンラインで行われるようになった省庁の説明会やワークショップに参加し、公務員試験の勉強に時間をさけるようになりました。国家公務員の就職活動では、約1年前から説明会やワークショップに参加する機会が大変多く、官庁訪問というプロセスを経る必要があります。説明会や官庁訪問で周りの方と話すうちに、イギリスの大学生や留学生としての自身ではなく、外務省や防衛省を志す学生としての自身が、周りと相対化される中で感じられるようになりました。その際に自身のアイデンティティや価値観が留学経験によってつくられていたことを志望者同士の交流の中で強く感じ、例えば自身にとって国際的な視点は自身の軸となる重要な視点なのだと感じるようになりました。留学によって自身の人生において重要だと認識していることやその他の考え方が大きく変化していたことを感じ、驚きました。
また、留学前に考えていたように国家公務員の志望者は確かに似た環境にいた方が多かったですが、留学前の予想とははるかに異なり、志望者の方々の考えは様々でした。そのことから、人は、いる環境ではなく、その環境でどのようなことをして何を考えたかが重要であることを、留学中の学びと合わせて再度実感いたしました。留学は行動する機会や考える機会が多く、その環境が少し特殊であるだけに過ぎず、自身が動き続け、考え続けることで、留学の経験はその人にとって活きてくるのだと思います。私自身、もっと留学中に様々な機会を得られるように努力出来たのではないかと反省しております。今後はどのような環境にいても、行動し続けて、考え続けたいと思っております。これが、私が留学で得た一番の教訓であると感じております。
私が今後外務省で、外務省のみに関わらず国家公務員として、また一人の人間としてどのようなことを行い、考え、そこから何を学び、何を為すのかは自分次第です。私は江副記念リクルート財団の支援により留学させていただき、様々な経験を積み、多くの学びを得ました。そのような経験や学びを、自身の目標の為に、また今後の人生に活かすことが出来るように、精進して参ります。
後輩たちへのメッセージ
毎月財団に提出するレポートはご自身の財産になると思っております。ですので、毎月の客観的な事実以外にも、ご自身を振り返りながら、何を感じたか、何に喜び、悲しみ、悩んだかも書いてみてもよいのかもしれません。私は自身のレポートの4年間の積み重ねは貴重な財産になりました。就職活動の前に最初からもう一度目を通しましたが、このようなことがあったのかと自分のことながら記憶が呼び覚まされることの連続で、過去の自分から学ぶこともありました。毎月のご自身を振り返る良い機会でもあり、留学生活の財産にもなると思いますので、留学中の様々な悩みや考え、喜怒哀楽を思いつつ、書くことをおすすめいたします。
私は留学で様々な経験と学びを得ました。この留学が今の自分をつくっていると強く感じております。大きな達成感を味わったり、悩んだりした留学中は自身を振り返る機会が大変多く、その度に自分自身に呆れ、また自画自賛する日々を過ごしておりました。立ち止まり成長出来ていないと嘆くことも、自身の小さな成長に喜ぶこともありましたが、最終的にそのような全ての経験が自身の血肉になったと感じております。期待通りいかないこと、立ち止まり続けていると感じること、様々あるとは思いますが、その上で自身がどのようなことをするのか、考えるのかが重要であり、私は立ち止まっている時が人にとって一番重要な時だと考えております。
たくさん喜び、苦しみ、悩みながら、最後には全てが無駄ではなかったと胸を張れるような留学になるよう応援しております。