――将来の夢、そしてその夢や現在の学びの場所を目指したきっかけは?
私の将来の夢は、世界中で演奏すること、多くの方に私の音楽を聴いてもらうことです。現在は、東京音楽大学を3年で早期卒業し、ベルリンのハンス・アイスラー音楽大学に留学しています。留学先をベルリンに決めた理由は、ベルリン・フィルやシュターツカペレの音楽を毎日でも聴きに行きたいからです。コロナ禍のため、ヨーロッパでは長い間ロックダウンが続き、コンサート会場も閉鎖されてしまいましたが、ワクチン接種が進み、少しずつコンサートが再開されてきました。まもなく夢のような生活が送れることに胸が高鳴っています。また、ピアニストのキリル・ゲルシュタインに師事したかったという理由もあります。キリルは演奏活動で多忙のため、彼のコンサートに合わせて、レッスンはベルリンだけでなく、ウィーンやモスクワ、日本でも行います。最近ではZoomでのレッスンも多くなりました。彼から教わることは、とてもシンプル。楽譜に忠実であることです。作曲家の書いた作品に敬意を払い、楽譜に書かれている音符や強弱、記号、リズム、和声など、あらゆる情報を分析し、説得力のある演奏をするには、1日中楽譜と向き合っていても時間が足りません。しかし、将来の夢に向かって毎日勉強を続けています。
――日常生活、生活環境について
私は、大学と並行して演奏活動を行っていますが、この夏は、スイスの「ヴェルビエ音楽祭」、ラトビアの「リガ・ユルマラ音楽祭」、ジョージアの「ツィナンダリ音楽祭」の3つの音楽祭に参加し、多忙ながら充実した時間を過ごしていました。
ヴェルビエ音楽祭では、私が現在3年かけて行っているプロジェクトの「モーツァルト・ピアノソナタ全曲演奏」を5日間に分けて行いました。全公演、medici.TVにて世界に配信されたので、とても緊張しましたが、世界中で演奏し、多くの方に聴いてもらうという私の夢に一歩近づけたのかなと思います。
リガ・ユルマラ音楽祭では、ソロリサイタルと、ヴァイオリンのマルク・ブシュコフとのデュオリサイタルの2公演を終え、次のジョージアに向けて出発する準備をしていたところ、音楽祭のフィナーレを飾るはずであったマリア・ジョアン・ピリスが転倒して大怪我を負い、入院。代役を引き受けてくれないかと、音楽祭の主催者から電話があったのです。それは公演30分前の出来事でした。私が慌てて会場に駆けつけると、会場はすでにピリスの演奏を聴くために集まった人たちでいっぱいでした。初めに主催者が壇上に上がり、経緯を説明しました。代役は日本のピアニストMao Fujitaが務めるが、もしどうしてもピリスでなくては嫌という人は、会場を去っても構わないとスピーチしましたが、誰1人席を立つことなく、私をあたたかく迎えてくれて演奏を聴いてくれたことに、本当に感謝するとともに、胸が熱くなる思いでした。
ツィナンダリ音楽祭では、ソロリサイタルと、マルク・ブシュコフとのデュオリサイタル、マルク・ブシュコフ、アレクサンドル・ラムとのトリオの3公演の予定でしたが、ここでもアンドラーシュ・シフの代役が入り(1週間前の依頼)、1公演追加となり、この公演もmedici.TVで配信されることとなりました。
ヨーロッパの音楽祭は本当に音楽のお祭りです。様々なハプニングも皆で乗り越えて、盛り上げていく力があります。また、素晴らしい出会いの場でもありました。クリストフ・エッシェンバッハ、イエフィム・ブロンフマン、ミッシャ・マイスキーをはじめ、著名な音楽家たちと共に過ごし、たくさんのことを教わりました。充実した素晴らしい体験ができた夏となりました。
――夢の達成に向けて、日々取り組んでいることや気を付けていること
毎日ピアノに向かうことももちろん大切ですが、できるだけコンサート会場に足を運び、色々な方の演奏を聴くようにしています。ピアノだけでなく、オーケストラやオペラもよく聴きます。作品を様々な角度から深く掘り下げた音楽作りは、とても勉強になり、ピアノを演奏する上でとても役に立っています。また、美術館へ行き、様々な時代の水彩画、油絵、書、工芸、彫刻などの芸術作品に触れることも大切にしています。大きなエネルギーを受け取ったり、インスピレーションを得たり、全ては音楽に繋がっているように思います。
気を付けていることは、体調面です。今年は、地方での公演の帰りに、新幹線の中で意識を失い倒れて、顔や腕や足を打撲し、青あざだらけになり、家族を驚かせてしまったことがありました。体は資本ですので、体調管理にも気をつけなければなりません。大学の授業で受けている、ヨガや呼吸法、ストレッチなどは、ストレスの緩和やリラックス効果に役立っています。
――これから更に挑戦したいことや、1年間の抱負
来年4月からは、日本での公演をしばらく休みにして、ヨーロッパでの演奏や、大学での勉強に集中しようと考えています。モーツァルト・プロジェクトの継続と、新たなレパートリーを広げるために頑張っていきたいと思います。このような勉学が続けられるのも、財団の皆さまのおかげで、感謝してもしきれません。夢に近づけるように努力を続けてまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします