――将来の夢、そしてその夢や現在の学びの場所を目指したきっかけは?
私の将来の夢は、脳卒中により日常生活の小さな幸せが奪われる人が一人でも少なくなるような世界を作ることです。脳卒中は多くの人の命を奪うだけでなく、寝たきりになってしまう理由の第一位です。加えて、言語や記憶など、人格に携わる多くの機能に支障をきたしてしまうことも少なくありません。血栓溶解薬や血管内治療の普及により急性期に患者の命を救うことができるようになりましたが、脳の機能を保存するような治療は未だ確立されていません。
元は研究者を目指していたのですが、イェール大学で医学研究を行っていた頃治療を行う中で感じた問題点を解決すべく研究に励み、また研究で得た知見を治療に活かしていたPhysician-Scientistの姿に感銘を受け、医学部進学を決めました。進学先を決めるにあたっては、検査よりも問診を重視した英国の伝統的な臨床アプローチを学びたかったこと、そしてニュートンやダーウィンなど偉大な科学者を多く生んだケンブリッジ大学に身を置きたかったことが重なり、ケンブリッジ大学医学部へ進学するに至りました。
――日常生活、生活環境について
大学では講義や病院での実習に加え、少数での指導(supervision)が行われます。基本的に自習を通して学ぶ内容が多いので、なるべく勉強の予定をしっかり組んで規則正しい生活を送るように心がけています。勉強のペースを一度崩してしまうと戻すのが大変なので毎日勉強するようにはしていますが、試験前などは特にメンタル面にも気をつけながらペース配分を調整するようにしています。
英国はインフラや治安も比較的良く、日本と似て暮らしやすいと感じることも多いですが、安く健康的な食事のバリエーションなど、日本の良さを改めて海外で感じることも少なくありません。海外に初めて渡った時は日本にない英米の強みにしか気づくことができませんでしたが、海外生活が長くなるにつれ他人に対する気遣いや細部への徹底したこだわりなど日本の良さも感じることが多くなりました。将来は日本と英国、米国それぞれの医療の長所を吸収し融合することで欧米の知見も取り入れながら日本らしい丁寧な医療を実践したいと考えております。
ケンブリッジは至る所に歴史が感じられる美しい街で、いくつもあるカレッジの聖堂では毎日のように無料のパイプオルガンや聖歌隊のコンサートが行われています。同じ地で連綿と紡がれた歴史に想いを馳せながら荘厳な静寂の中で立ち止まり、深く息を吸う時の気持ちは格別です。
――夢の達成に向けて、日々取り組んでいることや気を付けていること
勉強や論文執筆に追われていると目の前のことで手一杯になってしまうことも多くありますが、なるべく初心を忘れないよう時々立ち止まって自分を見つめ直す時間を作るようにしています。特に、毎日病院で過ごす時間が流れ作業にならないよう、患者一人一人の話を聞くように気をつけています。「医者にとって普通の1日でも患者にとっては人生最悪の一日かもしれない」という言葉を思い出し、自分が患者ならどのような医師に診てもらいたいか、と常に考えるようにしています。
――これから更に挑戦したいことや、1年間の抱負
今年からいよいよStudent Doctorとして臨床医学を学ぶ立場となります。医療者としての自覚と倫理観を持ち患者の治療に最善を尽くせるよう医学的知識のみならず傾聴の姿勢を学びたいと思います。また、今まで行ってきた様々な研究内容と臨床医学の学びを融合しPhysician-Scientistとして追求する方向性を模索したいと思います。
最後に、江副記念リクルート財団の手厚いご支援があってこそ留学先で勉学に打ち込むことができております。深く感謝申し上げます。
今後もそれぞれ目標に向かって努力している仲間たちと切磋琢磨し、精進する所存です。