2024/08/01

財団交流イベント”Meetup Reclabo”を開催しました

2024/08/01

江副記念リクルート財団は、2024年7月11日に東京で恒例の交流イベント”Meetup Reclabo”を開催しました。世界各地で学ぶ財団生が一堂に会するこの貴重な機会には、アート・学術部門から26名の学生が参加。昨年に引き続き大好評を博したこのイベントでは、普段は直接会う機会の少ない財団生同士が、部門の垣根を越えて交流を深めました。夏休みを利用した対面での交流は、財団生たちにとって刺激的で有意義な時間となり、新たな絆とインスピレーションを生み出す場となりました。

分野別発表① 学術部門48回生 筧路加 「科学と文化の融合の先にある食とは」

当財団評議員の花形照美氏による開会挨拶で幕を開けた本イベント。和やかな雰囲気でのアイスブレイクを経て、奨学生による報告へと移りました。トップバッターは、2024年夏にペンシルベニア大学を卒業し、秋からハーバード大学公衆衛生大学院 MS in Epidemiologyへの進学を控える学術部門48回生 筧路加さんです。

筧さんは、コスタリカでの高校生活、コロナ禍中の培養肉研究など、ペンシルベニア大学卒業まで主体的に様々な経験を積んできました。しかし、経験値を増やしていくと同時に、今後のキャリアについて不安を感じる場面もあったと振り返ります。しかし、大学院出願の際、5年前に当財団に提出したエッセイを振り返ることで、それらの経験が確実に現在の研究テーマにつながっていることを再確認。これからの大学院での研究が、過去の学び、現在の関心、そして将来の目標を結びつける重要な道筋であると確信を得たといいます。

発表後の質疑応答では、培養肉が実際に私達の食卓に並ぶのはいつ?といった身近な質問から、培養肉の研究手法に関連したテクニカルな質問まで、幅広い質問が寄せられました。これらの質疑応答を通じて、筧さんの研究が学術的価値だけでなく、実社会に与えるインパクトの大きさも改めて認識されました。

分野別発表② 学術部門49回生 田久保勇志 「ma = F で我々はどこまで行けるか」

続いては、同じく学術部門49回生 田久保勇志さんが発表を行いました。田久保さんはジョージア工科大学を卒業した後、スタンフォード大 航空宇宙工学 PhD課程で宇宙空間における最適化と軌道力学という最先端の領域に挑んでいます。

発表は、宇宙という広大な概念を新たな視点で捉え直すところから始まりました。宇宙を「見られる宇宙」と「行ける宇宙」に分類し、田久保さんは後者に焦点を当てた研究を展開しています。拡張された宇宙空間の人類による効果的な利活用方法の探求し、特に、宇宙におけるサプライチェーンの構築を主要な目標として掲げています。

「早く、簡単に、遠くへ」というキーワードを用いて、自身の研究ビジョンを端的に表現しました。例えば、日本とアメリカをわずか数時間で結ぶような画期的な移動手段について、技術的側面からもその実現可能性に触れ、発表後の質疑応答では、実用化の時期や宇宙ゴミ問題など、参加者から多岐にわたる質問が寄せられ、宇宙への高い関心と期待がうかがえました。

分野別発表③ アート部門52回生 中岡 尚子 「聴く/感得する」

アート部門からはベルリン芸術大学でサウンドアートを専攻する52回生 中岡尚子さんが「聴く/感得する」というテーマで発表。今回のテーマについて中岡さんは”マイクロフォンやスピーカーによる録音行為が生み出す語りを用いて、時間と空間を身体的に捉えようとしている”と説明を行います。

中岡さん自身の作品「wind sketch #01」では鑑賞者の動きによって空気の対流が生じ、自分や他者の身体の些細な動きが空間に影響を与えている実感、そして、視覚とは異なる距離の意識などを感じる作品となっていること。また、最近の作品では、一日の生活音を録音し、録音した音をスピーカーで再生しながら次の新しい一日を過ごし、またその音を録音する。それを繰り返すことによって、ひとつの場所が持つ時間の流れの中で、代わる代わる存在する人々のありかを音によって探求することを試みています。

これらの作品を通じて中岡さんは「その場所に人々がたまたま同時に存在すること。その少し前に他の誰かも存在し、そしてまた別の誰かもそこに存在しようとしていること。そうした隔たれた時間と存在を想像することは、自分の内の他者性に出会うことだと言えるだろうか」と投げかけました。

発表後の質疑応答では学術部門の学生から「サウンドアートの視点から音だけの音楽をどう考えるか」や「欲しい音が前提にあって構成やコンセプトを組むのか、構成が先にあるのか」といった質問が寄せられ、関心の高さがうかがえました。

BUG 小林颯展 「ポリパロール」

イベント会場となった東京駅のグラントウキョウサウスタワー1階には株式会社リクルートホールディングスが運営するアートセンターBUGがあります。イベント当日はアート部門卒業生小林颯さんの個展「ポリパロール」が開催されており、参加者全員でお邪魔をしました。(小林颯個展会期:2024年6月26日 – 7月21日)

小林さんは留学と同時期に起こった新型コロナウイルス感染症でのパンデミックによって一時帰国できず、見知らぬ土地でエクソフォニー*(ドイツ語で「母語の外に出た状態一般」の意)という状態を経験。そのことから〈よそ者〉について考えるようになり制作した《つぎはぎの言語》をはじめ、映像作品を中心に展示がされています。参加者からは「コロナ禍での苦労など、自分も投影されている感覚で、アートが身近に感じた」「アート部門の方たちの実際のワークを見る機会があるのは大きな刺激になりました」などの感想が寄せられました。

グループワーク

今年のテーマは「将来人が生きたいと思うために必要なもの」
テーマ設定の背景には、昨年(2023年7月)のイベント内でアート部門の学生が”生きるために必要なこと(to survive)”ばかりで”生きたくなるために必要なこと(to live)”が少ないが故に様々な問題が起きているのではないか、ということを発表。そこで今年は「将来人が生きたいと思うために必要なもの」を当日持っているもの、身につけているもの、会場にあるものなどを組み合わせて6グループで制作を行いました。



各チームの作品はそれぞれ異なる視点から「生きたいと思うために必要なもの」を探求し、参加型のものや、映像作品、体験可能なものなど、独自の創意工夫が感じられるものばかりとなりましたが、いずれも日常の些細な瞬間にも喜びや生きる意味を見出すことができるというメッセージが感じられるものでした。


今回は株式会社リクルート様より新規企業開発室グローバル企画:渋谷昭範様、人事ヒトラボ:福田竹志様にもご参加いただき、ビジネスの観点からの講評をいただきました。
渋谷様からは、発想や切り口の会社員との違い、デスクの枠を超えたワークショップ作品の大胆さなどについて、高く評価をいただき、武田様には、違った視点からの映像作品、メンバーの巻き込み力やパッションについて、プレゼンテーションの素晴らしさが好評でした。

閉会挨拶

最後は、代表理事理事長の峰岸真澄の心のこもった閉会挨拶で締めくくられました。

財団の特徴的な取り組みである学部生から27歳までの最長9年間にわたる奨学金支給制度について言及し、その背景にある深い想いを語りました。この長期的支援には、奨学生たちが描くビジョンの完遂を強く願う財団の熱意が込められています。そのため、財団が単なる資金提供者ではなく、奨学生たちの夢と目標を実現するための真のパートナーでありたいという思いを熱く語り、彼らを全力でサポートしていく決意を改めて表明しました。この言葉には、財団の使命感と奨学生たちへの深い愛情が込められており、参加者全員の心に強く響きました。