2024/08/19

2024/08/19

アガルワラユキ

アガルワラ ユキ Yuki Agarwala

転移性癌や抗生物質のスーパー耐性菌などの病気は21世紀中頃にさらに広がると予測されています。これらの治療困難な病気の克服には、生物医科学の研究と医学を含めた包括的なアプローチが必要だと思います。さらに、自分の知識のみなら…

江副記念リクルート財団は、理系分野専攻で未来を担う学生を学部から博士課程まで長期的に支援しています。今回は、その奨学生の一人であるインペリアル・カレッジ・ロンドンの医学部MBBS-PhDコースに在籍する学生にインタビューを行いました。アルツハイマー病への関心から始まり、生物医科学を経て医学研究への道を歩む彼の軌跡と、治療困難な病気の克服を目指す熱意ある将来の展望について伺いました。
 

ーーこれまでの経歴について教えていただけますか?特に、医学研究への興味を持ったきっかけや、現在の学びに至るまでの道のりを詳しくお聞かせください。

私は茨城県つくば市で生まれ、高校まで日本のインターナショナルスクールに通っていました。中学生の時にボランティアをしたことがきっかけで、アルツハイマー病が患者さんの生活に与える影響を初めて実感しました。同じ時期に、学校で人体の仕組みについて学んだこともあり、将来はアルツハイマー病など、21世紀にさらに広がるであろう不治の病を研究したい情熱が生まれました。高校時には世界的な科学コンテストで優勝し、ノーベル賞受賞者とのパネルディスカッションに招待され、研究するには好奇心と創造力が重要であることを強く意識しました。その後様々な大学でインターンとして研究する機会を得、将来は治療困難な病気の克服を目指すことを決意しました。

財団の支援のおかげでイギリスにあるインペリアル・カレッジ・ロンドンの生物医科学に進学することができました。2023年に卒業し、現在は同じ大学のMBBS-PhDという卒業時にMBBS(医学士)とPhD(博士)を取得できるコースで学んでいます。今夏はハーバード大学において、マサチューセッツ工科大学と共同で子宮頸癌の免疫療法について研究を行なっています。

ロンドンでも学業の合間を縫ってボランティアをしており、病院からその実績を認められ、表彰されました。

ーー生物医科学から医学へと進路を変更された理由は何でしょうか?

私は現在インペリアル・カレッジ・ロンドンの医学部医学科で学んでいます。中学生の頃から病気の克服に役立つ研究に貢献したく、生物医科学の学部に進みました。学部で学び始めた時は卒業後直接博士課程に進む予定でしたが、学部での経験から、効果的な医学研究をするためには医療現場を知り、医学の知識と技術も必要だと感じました。例えば、生物医科学においては、抗生物質の使用に関して、腸内細菌の影響によってスーパー耐性菌が発生するので、菌を見極めてから抗生物質を投与した方がいいと学びました。しかし、病院の救急外来でインターンをしていた時、医師が尿路感染していた全ての患者に抗生物質を処方していることに驚きました。スーパー耐性菌の発生するリスクについて医師に伺ったところ、感染の原因菌を培養するには5日かかり、その間患者を待たせることはできないと言われました。このことから、研究の技術を学ぶだけでなく、その研究が応用される現場の現実も知ることも重要だと感じ、医学への進学を目指しました。

ロイヤル・アルバート・ホールでのインペリアルの卒業式

ーー海外大学への進学を決意された経緯と、どのように準備を進められたのか教えていただけますか?

高校2年生の時に、日本の大学のオープンキャンパスに参加し、学部で学べる内容や研究に取り組める機会について伺いました。これらの大学では私が学びたい生物学の人体分野だけではなく、生物の全ての分野について学ぶ必要がありました。このため海外の大学を探し始め、生物学、生化学、生物医科学などのコースの違いについて調べました。全て生物関連の学部ですが、学科によって目的が異なる他、大学によっては同じ生物医科学でも違う学部にあったりします。例えば、インペリアルでは生化学と生物学は自然科学部にありますが、生物医科学は医学部にあります。このことからも分かるように、インペリアルでは生化学と生物学は事実を解明する基礎研究が重視されることに対し、生物医科学では医療の発展を目的にした研究に重きが置かれています。私は病気の克服に役立つ研究を目指しているので、生物医科学を選びました。大学のコースの目的を調べた他、学べる内容や入学資格、入学試験、面接などの受験方法も確認しました。入学資格は毎年変わる可能性があるので、高校3年時に出願する前に改めて確認してから出願しました。

インペリアルの寮で後輩の誕生日パーティ

ーー大学院進学の際、どのような点を重視して選択されましたか?また、医学科受験に向けてどのような準備をされましたか?

現在は大学院で医学を学んでいます。私は学部(生物医科学)で基礎生物学を履修していたため、1年目から臨床を経験できる大学院を重視しました。また、将来研究を目指しているので、最先端の研究をしている大学を重点的に探しました。医学科を受験する際、国によってUCAT、GAMSAT、MCATなどの試験を受ける必要があります。試験に通った学生は面接に進むことができ、面接で高い点数を取れれば合格できます。医学科の場合は、受験している国の永住権や国籍をもっていなければ、「国際枠」として判断されます。この枠で入学することは大変難しいです。私が受験した大学では毎年およそ1200人以上の国際枠受験者の内30人以下しか合格しません。このため、入学試験と面接の両方で高い得点を取る必要があります。学部受験時と同じく、志望動機書に自分の医学への志をどう表すのかを工夫し、先生や先輩にフィードバックをいただきました。入学試験が最初の判断基準になりますので、大学院に申請する前の夏は集中して入学試験の勉強をしていました。また、面接に進めた時は医学で問われる質問を調べ、回答時間内で質問に答えられるように何度も練習しました。

医学科で初めて学んだ解剖学の教科書

ーーリクルートスカラシップに応募されたきっかけと、また、この奨学金制度のどのような点に魅力を感じられましたか?

自分の夢を叶えるために生物医科学に集中した学部を目指したかった他、初期段階から研究経験を重ねたいと思いました。このようなコースは海外にしかありませんでした。高校の国際バカロレアで世界上位1%の点数を取得できたこともあり、大学から授業料半額免除の通知をもらいましたが、授業料や生活費は高額で経済的に難しかったです。しかし、どうしても諦めたくなく、全額奨学金を探し始めました。貴財団が理系分野で海外大学を目指す学生に授業料と生活費の全ての費用に対して支援をしている他、学部だけではなく、大学院でもサポートいただけることを知り、ここに希望の光を見出しました。

スカラシップのおかげで、夢を叶えるための環境を整えていただき、目標達成の道を歩み始めることができました。この大変貴重な機会を与えていただいた財団の関係者の皆様、そして応援してくださる皆様に心より感謝とお礼を申し上げます。

アメリカの企業が主催するデータサイエンスのプログラムに選ばれ、この企業とオックスフォード大学のローズトラストが共同で開催した「テクノロジーと社会」をテーマにした学会に参加

ーー財団の更新審査に向けてどのような準備をされていますか?また、面接で特に印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

財団更新審査の準備の際には毎月財団に提出する活動レポートの過去1年間分を振り返ります。その後、目標に向けての進捗状況や達成度を踏まえ、提出書類にまとめます。更新審査は毎年の進捗状況や目標の達成度を振り返るのに大変良い機会です。数年前の書類を振り返った時は自分の成長に驚いたりすることもありました。高校生の時には夢としか思わなかったことが少しずつ現実化しています。面接では過去一年の業績を紹介してから、自分の研究の進捗状況についてプレゼンしています。面接で特に印象に残ったことは私の研究について質問された時でした。審査員に聞かれた質問は私もその研究を始めた時に疑問に思ったことで、私自身が教授に質問したことでした。このことから更新審査は「面接」ではなく、自分が情熱を持っているテーマについてのディスカッションをする機会として見るようになりました。

また、結果通知をいただく時は結果だけではなく、審査員からフィードバックもいただけるため大変貴重な機会です。面接は評価のためだけではなく、世界で活躍されている経験のある審査員のご意見をいただくことにより、今の自分の道に自信を持って邁進できます。

生物医科学2年次にパリでの集中治療についての国際学会にて。この教授の下で集中治療室における音楽の影響について研究しました。教授から学部卒業後のキャリアを考える上で、大いなるインスピレーションを受けました。

ーー財団生として様々な交流やイベントに参加されたと思いますが、特に印象に残っている経験や、財団生であることのメリットについてお聞かせください。

私の目標と将来に対しての財団関係者の皆様のサポートは私にとって自信にもなり、とても心強い存在でもあります。また、近年、毎年夏に日本で部門を超えての交流会を行なっています。この交流会では様々な国のトップ大学で活躍している奨学生が集まり、多様な国の教育と研究環境を経験している奨学生に会える、財団ならではの大変ユニークな機会です。私は2023年の夏の交流会に参加し、アメリカで学んでいる多くの学生とアメリカの研究文化について意見交換することができました。交流会での話が印象に残り、アメリカでの研究経験を重ねたいと思いました。それが今夏のハーバード大学とマサチューセッツ工科大学の共同研究のインターンに参加した理由の一つでもあります。ロンドンだけではなく、今いるボストンなど、世界のあらゆるところで奨学生のコミュニティーがあるのも大きなメリットです。

また、奨学生としては学術部門だけではなく、毎年の総会では普段は会う機会が少ないスポーツ選手とも交流できます。スポーツ部門ではオリンピックに出場している選手もいます。私は去年総会委員を務め、スポーツ選手の生活習慣やトレーニングなど、興味深く聞く機会がありました。

ロンドンでの奨学生交流会。オックスフォードやケンブリッジの奨学生が参加しました

ーー大学院でどのような目標を達成したいとお考えですか?また、その先のキャリアプランについてお聞かせください。

生物医科学(学部)では研究の考え方について学びましたが、病気の克服に役立つような研究に貢献するには現在の診断法や治療法など、医療現場を知ることが重要だと思っています。医科学での第一目標は診療や診断、治療する方法を学ぶことです。医学部で学んだことを研究に活かせる方法についての理解も深めていきたいです。また、博士課程ではある問題を解明し、仮説を確かめるために効果的な実験計画を立てるプロセスを身につけたいと考えています。新たな研究手法を学ぶことにより、アプローチの幅を広げ、研究で解明できる問題の可能性も広げていきたいです。MBBS-PhD卒業後は専門医の研修が始まります。私は臨床と研究ができるキャリアを目指していますので、研究ができる専門医の研修プログラムに取り組む予定です。最先端の研究をしている医師の下で研修し、その成果を医療現場に応用することで研究と臨床の相互作用によって視野を広げていきたいです。将来は治療困難な病気の克服について研究を続け、患者の生活の質を向上させるという目標に向かって一歩ずつ歩んでいきたいと思います。

インペリアルのキャンパス(サイト

 


2025年度リクルートスカラシップ学術部門エントリー受付中(締切:2024年9月17日)
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