2024/08/25

2024/08/25

冠楓子

冠 楓子 Fuuko Kammuri

私は脳科学というまだまだ未解明なことが多い科目を勉強することにより、未だに治療法がない脳の病気の根本と治癒方法を研究していきたいと思っています。iPS細胞を使いパーキンソン病やアルツハイマー病などの治療法開発が少しずつ進…

江副記念リクルート財団は、理系分野専攻で未来を担う学生を学部から博士課程まで長期的に支援しています。今回は、その奨学生の一人であるUCL(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)の博士課程で脳科学を研究する学生にインタビューを行いました。国際的な経験を積み、アルツハイマー病の発症メカニズム解明に挑む彼女の研究への情熱と、神経疾患の新たな治療法開発を目指す将来の展望について伺いました。
 

ーーこれまでの経歴そして脳科学への興味を持つまでの過程について教えていただけますか?

私は小学生時代、日本の公立学校に通いながら、放課後や週末、長期休暇のほとんどをバレエに打ち込んで過ごしました。中学1年生のとき、本格的に英語の学習を始めると同時に、バレエをより専門的に学びたいという強い意志が芽生え、カナダのブリティッシュコロンビア州ビクトリアにある学校に2年間留学しました。

日本に帰国後は、高校卒業まで横浜インターナショナルスクールに通い、その過程で生物の授業を通じて脳科学に触れる機会がありました。この経験がきっかけとなり、脳科学への深い興味が芽生え、エジンバラ大学の学士課程では脳科学を専攻しました。卒業論文では、アルツハイマー病のマウスモデルを用いて、環境エンリッチメントがアルツハイマー病の進行に与える影響について研究を行いました。その後、UCL(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)で修士課程を修了し、現在は博士課程で「ダウン症マウスモデルを通じて解明するアルツハイマー病の発症メカニズム」について研究を進めています。

研究室のメンバーと学会にて

ーー現在取り組んでいる研究について、もう少し詳しく教えていただけますか?また、この研究テーマを選ばれた理由についてもお聞かせください。

私の研究では、ダウン症のマウスモデルを用いてアルツハイマー病の発症メカニズムを解明することを目標としています。ダウン症患者は21番目の染色体が通常の2本ではなく3本あり、この異常がアルツハイマー病発症リスクを99%にまで高めています。このリスクは、染色体異常による免疫システムの乱れが関与していると考えられます。私の研究では、ダウン症マウスの脳を用いて、この異常な免疫システムが記憶障害や不安反応にどのように影響を与えるかを明らかにし、分子レベルでの変化を特定することでメカニズムを解明することを目指しています。

高校生時代に脳科学を学ぶ中で、神経変性疾患の治療法が確立されていない現状に強い関心を持ったことをきっかけに脳神経系の病気の研究に従事したいと思うようになりました。神経変性疾患のメカニズムを解明することで、患者さんや患者さんの家族など多くの人々の生活の質を向上させる可能性があると感じ、現在はアルツハイマー病の原因究明に特化して研究を進めています。

マウスの脳細胞間のコミュニケーションを担うシナプスを染色した画像

ーー海外大学進学を意識し始めたのはいつ頃でしょうか?また、進学に向けてどのような準備をされましたか?

海外大学進学を意識し始めたのは中学生の頃でした。その時点では特に専門的な分野が定まっていたわけではなく、漠然と「海外で学びたい」という思いがありました。しかし、横浜インターナショナルスクールでの生物の授業を通じて脳科学に強く興味を抱き、この分野で最高レベルの教育や研究を受けたいと考えるようになりました。その結果、自分にとって最適な教育環境はアメリカまたはイギリスの大学にあると気付きました。

まず、海外大学進学で最も重要とされる学業成績の向上に取り組み、SATやACTといった共通テストの準備を開始しました。また、海外大学の受験では課外活動も重視されるため、学校内では人身売買被害者サポート団体でのボランティア活動、学校外では脳科学の研究に積極的に取り組みました。

受験期には、希望する大学のリサーチを行い、「なぜ脳科学を学びたいのか」や「将来の目標は何か」といった自分自身のビジョンを深く掘り下げ、それをエッセイに反映させるために言語化することに注力しました。

ーー大学院を選ぶ際に、特に重視されたポイントは何でしたか?また、UCLを選んだ理由と、大学院進学に向けてどのような準備をされましたか?

大学院進学にあたり、最も重視したのは研究室の研究内容でした。大学院では長期間にわたり一つの研究室に所属し、自分のプロジェクトを推進するため、自分が関心を持つ分野で優れた研究が行われている研究室を選ぶことが不可欠だと考えました。

さらに、大学がどの分野に力を入れているかも重要な要素でした。UCLは脳科学の分野で世界的に高く評価されており、特に神経科学の研究が非常に充実しています。この分野での活発な研究環境に加え、充実した設備やリソースの利用、さらには研究者ネットワークを広げる機会が豊富である点が、将来のキャリア形成において大きな利点になると考え、UCLを選びました。

準備においては、学部生時代の長期休暇を活用して積極的に研究室でのインターンシップに取り組みました。博士課程の受験では、学士課程と異なり「学力」よりも「研究力」が重視されます。そのため、インターンシップを通じて実際の研究経験を積むことが、受験に大いに役立ったと感じています。

ーーリクルートスカラシップへの応募を決めた理由を教えていただけますか?この奨学金のどのような点に魅力を感じられましたか?

リクルートスカラシップに応募した理由は、学士課程の4年間だけでなく、その後まで支援をしていただけるからです。私は当初から脳科学の研究者になり、治療が困難な病気がない時代を創り出したいという強い志を持っていました。この目標を達成するためには、学士課程だけでなく、博士課程まで修了することが不可欠だと考えていました。そのような中、2017年に応募を検討した際、リクルートスカラシップが博士課程の修了まで継続的に支援をしていただける唯一の奨学金であることを知り、応募を決意しました。

また、リクルートスカラシップの魅力は、金銭的支援にとどまらず、研究者としての成長を促進するためのネットワーキングの機会も豊富に提供している点だと感じています。私の専門分野である脳科学だけでなく、宇宙工学や医学など、これまで接する機会のなかった分野で世界トップレベルの研究を行う方々と切磋琢磨し、共に成長できる場を提供してくれるのは、リクルートスカラシップならではの特徴だと実感しています。このような環境で長期間にわたり成長を続けることで、私自身の研究者としてのキャリアが大きく飛躍することを確信しました。

ーー財団の更新審査に向けて、どのような準備をされていますか?また、これまでの面接で特に印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

財団更新審査に際して、私はまず自身の研究や学業の進捗状況を整理し、それを明確に伝えるための資料を作成することから準備を始めます。面接官は必ずしも私の分野の専門家ではないので、研究内容や今後の研究計画とその意図をより分かりやすく、興味を持っていただけるように伝えられるように準備をしています。また、自分の研究が社会にどのように貢献できるかを明確に伝えることも心がけています。

面接で特に印象深いのは、面接官から「頑張ってるね」や「今までよりも自信がついて見える」といった励ましの言葉をいただいたことです。こうした言葉をもらうと、自分の努力がしっかりと評価されていると実感でき、非常に励みになります。さらに、面接官が過去の面接内容や私の成長を覚えていてくださることに、とても感動しました。それによって、自分が一貫して努力を重ねてきたことが認められ、支援していただいていることへの感謝の気持ちとより一層頑張ろうという気持ちが強まりました。

ーー財団生として様々な交流やイベントに参加されたと思いますが、特に印象に残っている経験や、財団生であることのメリットについてお聞かせください。

財団生であることの最大のメリットの一つは、年に一度開催される総会などのオフィシャルな交流の場があることです。この総会では、器楽、スポーツ、アート、学術といったさまざまな分野で世界トップレベルの教育を受け、研究を行っている方々が一堂に会します。異なる分野の優れた才能を持つ人々と直接交流し、意見交換をすることで、自分の視野が大きく広がるだけでなく、新たなインスピレーションを得る貴重な機会となっています。

また、オフィシャルな場だけでなく、財団生同士のつながりがとても強いことも印象的です。意外に感じるかもしれませんが、財団生同士は非常に仲が良く、それぞれが個別に連絡を取り合ったり、近況を共有したりしています。さらに、同じ国に滞在している財団生同士で集まり、直接会って交流することも多々あります。こうした非公式な交流も、財団生としての絆を深めるとともに、異なる分野の研究者同士のディスカッションもとても刺激的で私自身の成長に繋がる良い機会となっています。

学術部門の財団生、アガルワラさんとお会いした時の写真です。

ーー大学院での研究を通じて、どんな夢や目標を実現したいですか?研究者としての未来の展望をお聞かせください。

大学院を含め、今後の研究者として私がかなえたいことは、アルツハイマー病などの神経疾患のメカニズムを解明し、これらの疾患に対する新たな治療法の開発に貢献することです。私だけの力では達成することはできませんが、私の大きな目標の一つに治すことができない病気がない世界を作ることがあります。現在行っている研究では、ダウン症マウスモデルを用いてアルツハイマー病の発症メカニズムを明らかにすることを目指しています。現在、アルツハイマー病は根本的に治癒することができない病気ですが、この研究を通じて、神経変性疾患の分子レベルでの理解を深め、将来的にはこれらの病気を予防・治療するための具体的な方法を提案できるようになりたいと考えています。

博士課程を修了後は、ポスドク研究員としてさらに専門性を高め、より一層アルツハイマー病などの神経変性疾患の原因究明と治療法の研究に励みたいと思っています。将来的には、研究の成果を社会に還元するため、製薬会社やバイオテクノロジー企業での研究を通じて、実用的な治療法の開発にも携わりたいと考えています。

 


2025年度リクルートスカラシップ学術部門エントリー受付中(締切:2024年9月17日)
募集要項はこちら⇗