2023/07/20

中村勇人 卒業レポート

2023/07/20

中村勇人

中村 勇人 Hayato Nakamura

私の目標は、汎用的かつ安定した長期運用が可能なBrain-Machine Interfaces(BMIs)の確立、さらにはBMIをプラットフォームとした新たな社会経済基盤の構築への貢献である。機械と機械を繋げるインターネ…

皆さん、こんにちは。江副記念リクルート財団の学術部門、第50回生の中村勇人です。6月をもちまして、江副記念リクルート奨学生を卒業することになりましたことをご報告します。私は現在、アメリカにあるスタンフォード大学に所属しており、Electrical Engineeringの修士専攻しておりました。今年度で大学院での二年目を終え、6月18日に修士号を修了することが出来ました。9月からは同じ研究室で博士課程を開始する予定です。また、幸いにもスタンフォード大学より学費や生活費、給料を含めた諸々がサポートされる事となりました。

私の研究内容はBrain-Machine Interface(BMI)と呼ばれるもので、これは脳とコンピュータとの間で直接的なコミュニケーションを可能にする技術です。基本的な動作原理としましては、脳内に埋め込んだ電極などからニューロンの活動を計測し、どのような情報がエンコードされているかを解読することで、コンピュータはユーザーからの入力を受けます。逆に、コンピュータからの出力は、電極から微小電流を流すことで神経細胞群の活動を制御し、特定の情報を脳に入力します。これにより、脳とコンピュータとの間に双方向インターフェイスを構築することができ、これまで不可能だったような人間とコンピュータとの相互的な関係、それに基づく革新的なアプリケーションを実現することができます。その中でも私が所属する研究室では人工網膜と呼ばれる、網膜にある神経細胞群に双方向での読み書きを行い、網膜疾患で視力を失った方に視覚情報を入力する技術を研究しております。

研究室で網膜を解体しているときの写真

スタンフォード大学に留学するに先立ち設定していた目標は以下の3つです。

  1. 修士課程在籍中にBMIを専門にしている研究室に所属する。

    入学早々に人工網膜の研究を行っているChichilnisky教授の研究室に所属することが出来ました。その後、今に至るまで同じ研究室で研究を行っております。

  2. スタンフォードの修士プログラムは学業がメインになっているため、GPAを3.7以上に維持する。

    修士号取得時点での最終GPAは3.923でしたので、無事達成出来ました。

  3. BMIの分野で機械学習を用いた研究に携わり、最低一本の論文を執筆する。

    まだPublishは出来ていませんが、現在、筆頭論文を一本と共同著者の論文を一本執筆中で、今年中のPublishを目指しています。一つ目の論文は、深層学習ベースのコンピュータビジョンを用いて人工網膜への入力信号を最適化する研究で、二つ目の論文は、強化学習を用いたBMIキャリブレーションの高速化における研究です。

江副記念リクルート財団様の支援のおかげで無事、当初設定していた全ての目標を達成することが出来ました。特に最初の目標に関しては、学費や給料の支援がない状態では非常に難しかったと考えます。

スタンフォード大学に入学してからの二年間で学んだことや研究したことは非常に有意義であり、研究者として大きく成長することが出来たと思います。また、授業でのプロジェクトや共同研究を通して、多くの方々と関わることによる人としての成長も感じられました。幸運なことに、自分が一緒に仕事をした仲間は皆、研究面での能力だけでなく、人間性としても非常に優れた方々ばかりで、特にチームプロジェクトでどのように振る舞うべきかなど、学ぶべきところがとても多かったです。個々の能力が重要なのはもちろんなのですが、チーム全体としての能力をこちらの方々は強く意識しているように思います。こうした経験は、自分が今後チームを牽引する立場になった際にとても重要になりますし、また、個々の能力の合計以上の力が出せるチームを自分でも作るというモチベーションにもなりました。

今後の目標ですが、まず直近のものとして、現在行っている研究をより深めていくことです。人工網膜は網膜変性に対する非常に有力な技術ではありますが、まだまだその性能は自然視力に比べて劣っています。コンピュータビジョンを応用したアルゴリズムの研究をさらに進めることで、より装着者にとって有意義な情報を入力できるようになります。また、BMIキャリブレーションは汎用的なBMIデバイスを実現する上で必要不可欠な技術です。人間の脳は個人によって大きく異なり、また同じ個体でも時間経過に伴って脳の構造は変化し続けます。このような変化に対応し、BMIの性能を一定に保つためにキャリブレーションは必要不可欠なのですが、キャリブレーションをする空間が非常に広大であるため、現状のアルゴリズムは数時間単位の長い時間を要します。強化学習により探索空間を効率的にサーチすることによりこのキャリブレーション時間を大幅に短縮することが出来ました。この研究をより進め、さらに短い時間でキャリブレーションを行えるようなアルゴリズムの構築したいと思います。これに加え、私の人生における大きな目標の一つはBMIの社会実装です。ですので、こうした大学での研究に加えて、産業界に積極的にアプローチしていくことも重要であると考えます。従って、BMIに特化した会社を興すことがもう一つの今後の目標です。こちらはまだまだ構想段階ですが、数年以内に何かしら形として報告できるように頑張りたいと思います。

この卒業レポートを読んでくださっている方の中には、これから財団奨学生になろうとしている学生さんも多くいらっしゃると思います。そんな皆さんに一つだけ私からアドバイスをさせていただくと、「毎日最低でも一人は新しい人と話すことを目標にする」ということです。これは、もし私が二年前の自分に出会ったら間違いなくするアドバイスでもあります。皆さんがこれから留学をする場所は新たな仲間や友人を作る上でこの上なく最高な環境です。皆、全く異なる価値観を持ちながらも、世界をより良い方向に変えてやるという強い思いのもとやってきている仲間であり、彼らと話すことは自分自身にとって非常に良い刺激となるでしょう。思いもよらないところで話をした相手が良き友人となることもあるでしょうし、そこから新たな繋がりが生まれることもあります。ぜひ、一日一日を大事にして、色々な人と話してみてください。

修士号の卒業式での写真

最後になりますが、自分の留学を応援してくれて、辛い時には支えてくれた家族と友人には大変感謝しております。そしてなりより、この留学を可能にするために多大なるサポートをしてくださった江副記念リクルート財団様と事務局の方々には感謝してもしきれません、本当にありがとうございました。財団奨学生としてのレポートはこれで最後となりますが、これからも研究、そしてBMIの社会実装に向けて邁進していきますので、応援してくださると幸いです。

江副リクルート財団第50回奨学生 中村勇人