2020年秋からの二年半に渡って、江副記念リクルート財団から海外生活をご支援いただきました。コロナ禍の影響もあり、最初の半年は東京で、残りの二年はベルリンで過ごしました。資金面に加えて、アート部門 現役生の増田さんと卒業生の石原さんとのトーク(「海外での滞在における作家のアイデンティティと制作」、2022年9月)など、課外活動の面でも支えていただきました。
三年前、装置と映像という手法が見つかった感覚が私の中であり、文脈やコンセプトの面をもう少し深掘りしたいと感じていました。同時に日本の現代美術のシーンのclosedでmasculineな点に辟易していて、逃れるように留学を決めました。私の好きな作家が多い点や、関心のイメージ学の起源である点からベルリンに移住したところ、生活も制作も地続きになって、大きな変化をもたらしてくれました。
留学当初は東京でオンラインの授業を受けていたため、各国のコロナ禍を反映した政策や態度の違いが気になっていましたが、ベルリンに移ってみると、よそ者、アイデンティティ、翻訳が私の制作のキーワードになっていきました。例えば「つぎはぎの言語 / 拼凑语言 / Space-in-translation」(2022)では、エクソフォニーと語りを主題に、ベルリンへ亡命してきた四川出身の詩人、廖亦武さんに話を伺い、そのお話の翻訳作業から四篇の詩を作りました。
対話は全編中国語で行われ、僕は中国語が全くわからないものの、廖さんのこちらへの眼差しや、残虐な体験を語る一方で飄々とした話の素振りが今でも印象に残っています。この制作を東京で出展できたことも良かったことの一つです。
また結果として、FeminismやQueer Film、Artistic researchといった分野を勉強できたのも収穫だったと感じます。それはひとえに「The personal is political. (個人的なことは政治的なこと)」の語を私が消化するための大事な過程でした。
今後は修了制作に向けて準備と制作の日々です。また展示もいくつか控えており、キュレーションに頑張って取り組んでいます。引き続き、アーティスト、映像作家、リサーチャーの間を行き来しながら、型に囚われないリサーチと制作を行い、発信していく予定です。Toi toi toi!