2019年から2021年の約2年に渡りスコットランドへの留学を江副記念リクルート財団にしていただきました。今もこの国で活動することが出来ているのは、偏に財団の献身的なサポートのおかげです。
この2年間はコロナウイルスの流行、ロックダウンで、イギリスでの生活・学業は困難なものでした。オンラインで絵を見せてアドバイスやコメントを貰うことに歯がゆく感じることも多く、それ以前に、どこで絵を描けばいいのかという前提の所から考えざるをえませんでした。
グラスゴーへの留学とは、そういったことから、私にとっては解体と再構築の期間だったと思います。ただ、美術に限らずに、生活そして私という人間としてもです。大げさかもしれませんが、コロナの始まりから今までずっとここにとどまり続けたこと、生活と制作をどうにかしようとして、どうにかなったことや、どうにかならなかったことの積み重ねや、この社会状況で、「もしここでの生活を諦めたらここには戻ってこれないかもしれない」や、「ここにいる間に祖国や家族はいなくなってしまうかもしれない」という2者択一のような環境で生活をおくったことは、自分の全体をバラバラにしてその欠片を少しずつ拾い集めるようなものでした。
そもそも留学とはこういうものなのかなとも感じます。積み上げてきたものがゼロになって、もう一度組み立てなければならないような。極端に日本人の少ないここでは、「日本での自分」のことは誰も知らず、「ここでの自分」は自分が一から作るものでした。適応という言葉でも説明できるかもしれません。それなら留学とはそのプロセスである同化と離反の狭間の緊張状態にいること。どこまでが私で、どこまでが私ではないのかで揺れることなのだろうと思います。
今後も私はグラスゴーで生活し、制作していくことを考えています。卒業してからは働き始め、生活費を稼ぎながら空いた時間で、スタジオを借りるために、あまり収穫もありませんが、街中を走り回っています。
今は制作する場所もないし、自分にはこれといって輝かしい受賞歴もないし、スタジオを借りるための申請書では少し嘘を書いてしまって、罪悪感を感じていたりもします。けれどもこんな生活にも妙な充足感を感じたりもします。楽ではないし、みじめさを感じることも多いですが、苦という訳でもないのです。これから何が起こるか分かりませんが、一瞬一瞬を噛みしめながら精一杯生きていこうと思います。改めて、今ここにいることが出来て、夢を追えるのは財団のおかげです。ありがとうございます。