Q&A
ーー質問 ; ディアスポラになりたい、渡航した決心したきっかけはなんですか?その行き先は、縁もあるかもしれませんが、どのようにして仮決めをしましたか?教えてください。
小林: 僕は、芸大の修士の2年間を経て、その場所やアートシーンの閉塞感が気になってしまって、外を覗いて見たくなりました。ドイツの中でもたくさん都市があるのですが、ベルリンはイメージ学の発祥の場所の地で、好きな作家も多かったこと、またクィアについてのオープンな場所だったのでそこを選びました。
増田 : 私は両親ともに人生の大部分を海外で過ごした人たちだったので、小学校からあまり日本で馴染めなくて。公立の小学校だったのですが、高校で女子高に入って初めて居場所を見つけました。大学も同じく楽しかったですが、海外で学びたいという気持ちはずっと持っていたように思います。またもう1つの理由は、自分もクィアであることで。ロンドンではクィアコミュニティーはクラブカルチャーと密接に結びついていて、ある場所に行けば自分の居場所がある、つかの間でも逃げる場所があるということを感じられるのですが、日本でそのコミュニティーを1つも見つけれられなかったんです。いわゆる家制度的な家庭があって、個人があって、でもそこにはオルタナティブな家族や、家制度を離れた別の家族が存在しないという状況がしんどくなり、RCAの特定の先生の元を目指して逃げてきた、という感覚が近いかもしれません。
石原 : 私も小学生の時に母の恋人がアメリカ人だったこともあって、頻繁に海外に連れて行かれていたこともあり、日本に馴染めなさを感じていて。増田さんと通ずるものもあるかもしれませんが、ずっと海外で学びたいと思っていました。行きたいけれど、どうやってやったら良いのかもわからない中で情報を集めつつ、助成金に応募を出しまくりました。場所はどこでもよかったというか、銃が怖いのでアメリカは嫌だと思っていて、ちょうどその時に仲の良い友人がロンドンにいるのでロンドンを選びました。すごく単純な理由だったのですが、とにかく日本から出たかった、という気持ちが強かったです。
ーー質問 ; みなさん物を考えるときは何語で考えますか?
小林:僕のところはドイツだけど英語がメインの学科にいて、大抵は英語で進行されつつセオリー/理論系とかはドイツ語なんです。なのですごく英語とドイツ語と日本語が混ざった環境の中で生活していて。
増田 : 小林さんは独り言を言うときは全部日本語ですよね?
小林:いやそれが、ドイツ語も気持ちいいかもとか最近思ってるんですよ。Genau! (exactly!)とかを最近英語に混ぜて使うとか。
石原 : 私はイギリスにいた時はずっと英語と日本語が混じっていて、夢も英語で見るくらいだったんですが、もう帰ってきて2年になるので、いまは完全に日本語で、ほとんど英語は抜けてしまったかもしれません。でも記憶がないくらい泥酔した時などは、居酒屋で隣にいた外国人とバリバリ英語で喋ってたりして、やっぱりどこかに残ってるんだと自分で驚いたり。笑
ーー質問 ; 日本では活動しにくいですか?海外では正当に評価されていると思いますか?
増田 : 私はこれは明確に、マイノリティにとっては日本の美術の領域は居心地の悪い場所だと考えていて。「表現の現場調査団」さんが数字に出してくださっていると思うのですが、女性の大学教授、キュレーター、批評家、アーティスト共に本当に少ないことによって、何もしなくても女性の(あるいは何らかのマイノリティ性を持つ)若手アーティストが勝手に没落してゆくような状況があると思っています。若手の、Upcoming Artistである一番しんどい時に、そうした場所にいたくないという思いから私は海外に来ました。
石原 : 私も増田さんと同意見です。
小林 : それは僕もわかります。こちらに来てまず驚いたのは女性の教授の多さですね。それがあるからこそ、自分のパーソナルなジェンダーやセクシュアリティを作品にしていいんだという安心感がありました。
増田 : そうですね。女性のプラクティショナーの数が多いだけでなく、その影響で、いわゆる男性社会では価値が低いとみられてきた「個人的であること」「パーソナルなこと」が大切にされる文化がここにはあると思い、そういった点では海外に出てきてよかったなと思います。
プロフィール
小林 颯 / hayate kobayashi(江副記念リクルート財団アート部門49回生)
アーティスト/映像作家。1995年生まれ。ドイツ・ベルリン在住。東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。現在、ベルリン芸術大学大学院アートアンドメディアに在籍。器として映像を捉え、自作の装置から新たな映像の形態を探る。近作はエクソフォニー(ドイツ語で「母語の外にある状態一般」)と詩をテーマに装置と映像を制作中。Forbes 30 Under 30 Asia 2022 The Arts 選出。
増田 麻耶 / Maya Masuda(江副記念リクルート財団アート部門50回生)
アーティスト/研究者。 New Media におけるフェミニスト・クィア批評を専門としながら、テクノロジーにみられる家父長的な欲望を問い直すような作品制作を行なう。現在は英 Royal College of Art 修士課程にて現代美術を専攻、フェミニスト/クィア批評誌i+med(i/e)a の共同編集長。近年は、Object Oritented Ontologyやアブジェクションといった複数の視点を踏まえつつ、ポルノグラフィーにおける視覚中心主義のエコノミーについて再考している。
石原海 / UMMMI.(江副記念リクルート財団アート部門卒業生)
アーティスト/映画監督。ジェンダー、個人史と社会を主なテーマに、フィクションとノンフィクションを混ぜて作品制作をしている。第15回資生堂アートエッグ入選(2021) 。初長編映画《ガーデンアパート》(2017)、東京藝術大学の卒業制作《忘却の先駆者》(2018)がロッテルダム国際映画祭に2作同時選出(2019)。また、英BBCテレビ放映作品《狂気の管理人》(2019)を監督。現代芸術振興財団CAF賞岩渕貞哉賞受賞 (2016)など。