2022年12月17日(土)13:00開演 紀尾井ホール
今年も年末恒例となった第28回リクルートスカラシップコンサートが紀尾井ホールで開かれました。聞こえてくるのは「これだけのメンバーが揃ったコンサートでこのプログラムは滅多にない!」という声。ホールチケットは発売初日数時間で完売。嬉しい悲鳴でした。
出演者の皆さんが「年に一度全員が揃うこのコンサートは同窓会みたいで楽しみ!」というこのスカラシップコンサート。自ずとリハーサルもすぐに息が合い、意見が飛び交い、回数を重ねる毎に音が変わっていきます。
今年もライブ配信を行い、配信でしか聞けない出演者インタビューも挟みました。遠方から足を運べない方々にも喜んでいただけたと思います。
◆プログラム
I. ベートーベン:ピアノ三重奏曲第5番ニ長調 作品70-1 「幽霊」
北川千紗(ヴァイオリン)、上野通明(チェロ)、小林海都(ピアノ)
II. ブラームス:ピアノ四重奏曲第1番ト短調 作品25
辻彩奈(ヴァイオリン)、田原綾子(ヴィオラ)、水野優也(チェロ)、桑原志織(ピアノ)
III. フォーレ:ピアノ四重奏曲第1番ハ短調 作品15
外村理紗(ヴァイオリン)、田原綾子(ヴィオラ)、鳥羽咲音(チェロ)、吉見友貴(ピアノ)
IV. シューマン:ピアノ五重奏曲変ホ長調 作品44
戸澤采紀(第1ヴァイオリン)、吉田南(第2ヴァイオリン)、石田紗樹(ヴィオラ)、
岡本侑也(チェロ)、藤田真央(ピアノ)
V. ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲第2番イ長調 作品81 B.155
前田妃奈(第1ヴァイオリン)、佐々木つくし(第2ヴァイオリン)、
石田紗樹(ヴィオラ)、岡本侑也(チェロ)、小林愛実(ピアノ)
VI. ショスタコーヴィチ:ピアノ五重奏曲ト短調 作品57
周防亮介(第1ヴァイオリン)、戸澤采紀(第2ヴァイオリン)、
田原綾子(ヴィオラ)、上野通明(チェロ)、亀井聖矢(ピアノ)
企画・プロデュース:伊藤 恵
開演の挨拶 今年の開演の挨拶は藤田真央さん。真央ワールド全開の楽しい挨拶でホールの雰囲気を和らげてくれました。
I. ベートーベン:ピアノ三重奏曲第5番ニ長調 作品70-1 「幽霊」
北川千紗(ヴァイオリン)、上野通明(チェロ)、小林海都(ピアノ)
プログラムを見てまず目に留まるのは「幽霊」という愛称。第2楽章のピアノに現れるトレモロの効果が当時の聴衆には不気味に受け取られた為にそう呼ばれるようになったという説も。
今年の3月に財団を卒業する上野通明さんと小林海都さん。そして奨学生の中ではベテランとなった北川千紗さんのトリオ。海都さんはイギリスから帰国した日、羽田からリハーサル会場へ直行のハードスケジュール。それにもかかわらず、すぐに真剣な熱のこもったリハーサルが始まった。
II. ブラームス:ピアノ四重奏曲第1番ト短調 作品25
辻彩奈(ヴァイオリン)、田原綾子(ヴィオラ)、水野優也(チェロ)、桑原志織(ピアノ)
財団卒業生の阪田知樹さんによる解説に「この四重奏曲中最も有名なのは作曲者によってジプシー風ロンドと書かれている第4楽章であろう。ピアノの華麗な技巧と共に熱狂的なクライマックスを築いて幕を下ろす」とある。スカラシップコンサートの出演は今年が最後となるピアノの桑原志織さんにふさわしい曲。
外村理紗(ヴァイオリン)、田原綾子(ヴィオラ)、鳥羽咲音(チェロ)、吉見友貴(ピアノ)
室内楽作品や歌曲作品にて名作を数多く遺した、近代フランスを代表する作曲家、ガブリエル・フォーレによる作品。チェロの鳥羽さんによると、「短調にもかかわらずとてもエネルギーに満ち溢れた曲。3楽章では当時フォーレの私生活で起きた悲しみを少し垣間見ることもできる。」
スカラシップコンサート初出演のピアニスト吉見友貴さんは22歳、2回目のチェロの鳥羽咲音さんは17歳、ヴァイオリンの外村さんも21才。若手をリラックスさせるリーダー的存在の田原さん。初めてのリハーサルでは緊張気味だった吉見さんも次第に楽しそうな笑顔に。ピアノの音も気持ちに合わせるかのように変わっていきました。
IV. シューマン:ピアノ五重奏曲変ホ長調 作品44
戸澤采紀(第1ヴァイオリン)、吉田南(第2ヴァイオリン)、石田紗樹(ヴィオラ)、
岡本侑也(チェロ)、藤田真央(ピアノ)
数あるピアノ五重奏曲の中でも最も演奏機会が多く、愛好されている作品とも言える曲。妻であり、名ピアニストのクララ・シューマンによる1843年ライプツィヒでの初演後も、彼女が演奏会で継続的に取り上げたこともあって、作品と作曲者の評価を高めたという。
昨年まで現役奨学生だったチェロの岡本侑也さんが今年は卒業生として特別出演。戸澤さんが「華やかでエネルギッシュ、多幸感のあるシューマンの五重奏曲」というように、冒頭の明るい旋律が耳から離れない。
V. ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲第2番イ長調 作品81 B.155
前田妃奈(第1ヴァイオリン)、佐々木つくし(第2ヴァイオリン)、
石田紗樹(ヴィオラ)、岡本侑也(チェロ)、小林愛実(ピアノ)
ドヴォルザークの故郷であるチェコの民族音楽的な要素と古典的な形式を融合させたドヴォルザークの代表作の一つ。第2ヴァイオリンの佐々木つくしさんは「ドヴォルザークらしい民族的なリズムやのどかで美しいメロディなど素敵な要素がたくさん詰まった曲」という。
今年が奨学生として最後の出演となる小林愛実さん。若手の前田さんのダイナミックな動きに聴き手の気持ちも高まる。
VI. ショスタコーヴィチ:ピアノ五重奏曲ト短調 作品57
周防亮介(第1ヴァイオリン)、戸澤采紀(第2ヴァイオリン)、
田原綾子(ヴィオラ)、上野通明(チェロ)、亀井聖矢(ピアノ)
締めくくりのショスタコーヴィチは、旧ソビエト連邦の作曲家。このピアノ五重奏曲は、初演で成功を収め、国家の発展に寄与した業績や作品に贈られる国家最高賞のスターリン国家賞を受賞したという。
スカラシップコンサートでは今年が最後となるヴァイオリンの周防さんとチェロの上野さん。上野さんは「ショスタコーヴィチが大好き」。スカラシップコンサート初出演のピアニストの亀井さんにとっては、「自身初のショスタコーヴィチ作品への挑戦」とのこと。そして、第2ヴァイオリンの戸澤さんは、「密かに憧れていた初めてのダブルヘッダー」「より広いダイナミクスの中に、個人的な吐露と皮肉が感じられる」という。
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◆アンコール:メンデルスゾーン: ピアノ三重奏曲第1番Op.49 より 第2楽章
周防亮介(ヴァイオリン)、上野通明(チェロ)、桑原志織(ピアノ)
今年3月に財団を卒業するのは、上野通明さん、桑原志織さん、周防亮介さん、小林海都さん、小林愛実さんの5人。在籍の長い上野さん、桑原さん、周防さんがアンコールを演奏してくれました。3人が選んだ曲が、メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番Op.49 より 第2楽章。
周防さんがアンコール曲を紹介したとき、ホールからおこった静かなどよめき。3つの楽器が奏でる旋律の語り合いが美しく物悲しく、演奏が終わっても少しの間名残惜しそうな静寂が続いた。
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終演後のほっとした表情
リハーサル風景