新型コロナウイルスの影響も世界的に落ち着き、当財団でも4年ぶりとなる、対面の交流イベント”Meetup Reclabo”を2023年7月13日に開催いたしました。
今回のイベントでは、学術部門&アート部門の学生28名が集まり、分野別報告会、パネルディスカッションやグループワークなどの充実したコンテンツと、普段接点が少ない学生同士の交流を通じて、新たな視点や気づきが得られたイベントとなりました。
開催概要
◇日時:2023年7月13日(木) 11:00~15:00(~17:00奨学生交流セッション)
◇内容
・開会挨拶
・アイスブレイク(クイズ大会)
・分野別発表① 学術部門45回生 川北源二、52回生 西健斗「ヒトとAI:異なる知性のメカニズム」
・分野別発表② アート部門 51回生 蔵内淡 「画像生成AIがアートの世界をどのように変えるのか?」
・パネルディスカッション「好きを追及することについて」
・交流ランチ
・グループワーク
・卒業生紹介
・理事長挨拶
◇開会挨拶~アイスブレイク
当財団評議員花形照美さんによる開会挨拶のあと、チームに分かれてクイズ大会に挑みました。クイズの内容は財団に関連する問題で構成されています。例えば、「現役の財団生が一番多く在籍する学校は?」(A.ハーバード大学)、財団生がオリンピックで獲得したメダルの数は?」(A.8個)など、チームごとに力を合わせて回答を導き出しました。
◇分野別発表①学術部門 45回生 川北源二、52回生 西健斗
今回は「ヒトとAI:異なる知性のメカニズム」をテーマに2名の財団生が共同でプレゼンを行いました。注目を高めるChat GPTを代表とする大規模言語モデル。「大規模言語モデルはどのように情報を記憶しているのか?モデルの記憶に間違いがある場合、訂正できるのか?」についてHarvard Center for Brain Science で understanding 等の研究を行う西さんがプレゼンを実施しました。
AI の機能が急速に進化する一方、仕組みの理解が遅れている現状について具体例を交えて解説。現在 Harvard Center for Brain Science のラボで行っている、合成グラフを使ってモデルの記憶メカニズムを理解する研究について紹介しました。「AI Alignment」などの重要性に触れ、今後もこれらの研究を通して AI の理解を深めることに貢献していきたいと語ってくれました。
続いてImperial College Londonで研究を行う川北さんからは「大規模言語モデルとヒトはどれくらい似ているのか?」についてヒト同士の意識の構造の似具合を定量化する手法を応用した研究を共有。こちらは、GPTにヒトと同じ実験タスク(二つの色がどれくらい似ているかを回答するタスク)を行わせたものです。
その結果、ヒトと大規模言語モデルは同じ実験タスクで似たような応答を示すことが判明。また同じ文章をヒトと大規模言語モデルに与えたときの脳活動とネットワーク活動が似ているという先行研究も紹介しました。この類似性は予測誤差最小化のメカニズムに起因する可能性があること、脳と大規模言語モデルの構造やエネルギー効率は大きく異なることについても言及しました。
異なる分野を学ぶ学生からは「リカレントニューラルネットワーク (RNN) と脳の関連は?」 「推論には複数の種類があるが、Chat GPTも同様な推論が出来るのか?」 「モデルが違った場合でも、AIはヒトの知能を再現できる?」といった質問があり、質疑応答を通じて知識を深めました。
◇分野別発表②アート部門 51回生 蔵内淡 「画像生成AIがアートの世界をどのように変えるのか?」
蔵内淡さんは、ロンドン芸術大学 セントラル・セント・マーチンズに在籍し、絵画だけでなく立体や、映像などジャンルを問わない制作をしてい ます。
蔵内さんは今回のテーマである”AI”が作り出すものはアートであるか否か、について今のところアートとは言えない、という自身の見解を述べました。その理由として、アートは”作りたいという欲望によって作られたもの” というアーティストの斉藤恵汰さんの言葉を引用し、欲望のないAIとは最も異なる点だと指摘しています。ただし、イラスト制作などは人間と区別がつかない場合もあり、実際にイラストレーターが失職に追い込まれるケースもあるそうです。
そのような中、アーティストはいま何を考えるのか?という自身の問いについて、AIと異なる点が”欲望”だとしたら、自分の欲求に対して忠実になる、わがままになる、というところに立ち戻る必要があるかも知れない。また、絵画であればそもそも絵画とは何なのか、ということを問い直したり、絵画の物質性と向き合っていく姿勢などが大切になる、と話しました。
学術部門の学生からは「初心に帰って”定義から考え直す”考え方に刺激を受けた」など、分野を超えたとても興味深いテーマだったようです。
◇パネルディスカッション「好きを追及することについて」 (学術部門:49回生岩附莉那、52回生細田翠、アート部門:52回生 奥村研太郎)※進行:学術部門51回生 近藤耕太
財団生の共通項の一つが、自身の専攻に対し揺るぎない志を持っていること。その志を世界トップの大学で学ぶに至った背景や今後の展望について、各分野の視点からお話しをいただきました。
進行役を務めた、MITで航空宇宙工学を学ぶ近藤耕太さんは、好きを追及するために「楽しいと思うことをやる」とのことです。近藤さんはもともと飛行機そのものに対して強い興味があったそうですが、研究外でもリフレッシュするために、身体を動かしたり、研究外のコミュニティに参加して楽しむことで、厳しい研究も楽しく前向きに取り組めていると話しました。
シドニー大学で獣医学を学ぶ岩附莉那さんは、幼い頃にテレビで重油まみれになった野鳥の姿を見て衝撃を受け、自分が救える立場になりたい、と獣医師を志したそうです。現在もその気持ちはブレず、現場に足を運ぶことにこだわって好きを追及している姿勢に、岩附さんの動物に対する深い愛情を感じた財団生も多かったと思います。
秋からイエール大学のメディカルスクールに進学する細田翠さんは、高校生の時に訪れたブータンの小児障害者施設での体験が自身の現在の専攻に大きな影響を与えたそうです。必要な医療にアクセスできない子供たちが多くいる現状は、その国や地域の文化・常識などの事情によるものも大きいとのこと。その背景を理解・想像が出来る国際的な医師になることを目指し、最終的には日本に戻って日本の課題に役立つことが出来れば、と前向きに語ってくれました。
一方、秋からセントラル・セント・マーチンズに進学予定のアート部門 奥村研太郎さんは、作品を作るということは、知的な行為や役に立ちたいという行為と比べて、排せつに似ている。より自然な行為、意味のないことをしたい、と語ります。
奥村さんのキャリアは絵画をきっかけとしてスタートしましたが、絵具だけではなく、物質の色彩や明暗によって模様ができることに興味が沸いたそうです。現在は映像と彫刻で作品を作り、より物質感が感じられるとその魅力を語ります。
参加者からは「自分とは全く違った観点から全く異なった論理ステップを通して物事を考えているのを見ることができ、非常に興味深かっただけでなく、人類の発展には多角的な観点が必要なのだと改めて感じることができた」といった感想が寄せられました。
◇交流ランチ
分野・学校などが異なる、普段交流のない学生同士のグループに分かれてのランチタイム。栄養バランスがしっかりと考えられた食事は、今回の会場となったアートセンター「BUG」に併設されている「BUG CAFE」にご用意いただきました。
「学術的なトピックだけでなくプライベートな話題でも盛り上がることができ、とても楽しい時間を過ごすことができた」や「コロナの影響で一度もin personで会えなかった財団生たちと直接会話することができとても嬉しかった」など、直接会っての交流にとても満足している様子でした。
◇グループワーク
6つのグループにわかれてグループ内で決めたトピックに対し課題設定を行い、メンバー間でコラボレーションし解決策を発表するというワークを実施しました。ワークの時間は45分程度と非常に限られた時間ではあったものの、各グループが個性豊かなプレゼンを行いました。
◇卒業生紹介
イベント参加者のうち、47回生グェン イェン バン マイさん、50回生中村勇人さんのお2人が財団を卒業するため、峰岸理事長より卒業記念品が贈呈されました。
グェンさんは5年間の財団生としての活動を振り返り、アートとサイエンスを融合させるという研究にも携わることができたことへの感謝、中村さんはこれからも自身の活躍はSNSなどで積極的に発信をしていきたい、という力強いメッセージを現役奨学生に伝えました。
◇理事長挨拶
当財団代表理事理事長の峰岸真澄よりご挨拶をいたしました。6つのグループに分けて行われたグループワークの発表について、それぞれ講評を行いました。各チームが設定したアジェンダがビジネスの場で実際にどう議論されているかを話され、またすぐにでもビジネスにつながる内容が多いと好評価をいただきました。最後に、自分の「好き」を大切にしていただき、財団としてその「好き」に対してサポートしていきたいと思っていることをメッセージとして、閉会いたしました。
閉会後、希望者は会場に残り、分野の垣根を超えての奨学生交流セッションを行いました。他愛のない話から、熱いディベートまで、閉場の時間ギリギリまで話題は尽きない様子でした。
財団生の多くが待ちに待った、対面での交流会。「オンラインより打ち解けることができた」、「発表する時もオーディエンスの反応を見ることができた」、「普段はなかなか交流することのないアート部門の方々と話すことができて良かった」など、顔を合わせたからこそ感じることが出来る、とても充実した一日を過ごしました。今後も当財団では財団生の学びや成果の共有、相互交流のサポートなど、様々な支援をしていきたいと思います。