奥村 ありがとうございます。それでは、3つ目の質問に移らさせていただきます。留学とは異なる海外経験の良いところと悪いところについて教えてください。別に留学だけではなく作家としてレジデンスだったりとか、ただ旅をしたりだとかみたいなことをみなさんご経験されていると思います。水野さんは留学ではない、海外との関わりはありましたか?
水野 大学院に入る前に、フィンランドとポルトガルで1ヶ月ずつレジデンスをやっていました。レジデンスの時は、他のアーティストやクリエイターと、フラットな関係で一緒に滞在して、生活をある程度の期間共にできるなと思っていて。フィンランドはもともと社会的にもあまり上下関係がなくて、わりと平等な関係性ではあるんですが、大学の先生と学生みたいな関係性になると上下関係とまではいかないけど、固定された関係性があって。でも、レジデンスの場合は一緒に滞在する人が学校の先生でも著名なアーティストでも一緒に生活することを通じて、わりとフラットに仲良くなれた経験があります。そこで出会った人たちとは今もまだ交流が続いていて、留学とはまた違った経験で、やって良かったなって思っています。
奥村 僕自身はレジデンスの経験はないのですが、以前、日本でのレジデンスプログラムについて調べていた時に、1ヶ月の間にたくさんワークショップを開催してくださいとか、最後の1週間で展示をしてくださいとか、結構これをしてくださいっていう開催する側のしてほしいことが結構あるんだなあと思った記憶があります。水野さんが経験されたものもそのような形でしたか?
水野 私が経験した2つは、どちらも特に成果物みたいなものは必須ではなかったです。私がレジデンスした時は、まだ大学院にも入っていませんでしたし、美術を勉強してきたバックグラウンドもなくて、自分の自費負担として行ったので、わりと自由に、成果物とかも求められずに滞在していました。自分の実績を積むためという形で行っていたので、やりたい人は何か発表とかできたんですけど、でも必須ではなかったですね。
奥村 レジデンスに参加した時にすごくフラットな関係で繋がれたとおっしゃっていたと思うんですけど、その時に繋がれた仲間的な存在の人たちとは今でも連絡を取り合ったりとかもあるんですか?
水野 そうですね。今でも連絡を取り合ってます。1人はアメリカの大学の教授だった方なんですけど、すごく個人的に仲良くなって、自分が大学院に入る時の推薦書を書いていただくぐらいの仲になりました。あと今年の夏は忙しくて叶わなかったんですけど、ポルトガルで同じ時期に滞在してた4人ぐらいのアーティスト・クリエイターでまた一緒にレジデンスやりたいねっていう話をメールとかでやり取りはしてるので、これがいつか本当に実現していけばいいなと思っています。
奥村 なるほど!なんだか楽しそうなお話ですね!次は栗林さんにお伺いしたのでが、先ほどもドクメンタのお話を少し聞かせていただきましたが、作家としてそこにいるというのと、20代30代の学生の時にそこにいる時の自分の中の違いとかってありますか?
栗林 うん、でも今思ったら必死だったのかな。別にお金があるわけでもないし、才能があるわけでもなく、さっきの話に戻っちゃうけど。そういった部分では今もそういう風に生きてるけど。そういえば、今水野さんが話してたけど、藝大のヤギってあれ、小沢剛さんが飼ってたやつじゃないの?
水野 はい!!そうです!
栗林 そうだよね笑 俺はレジデンスはあんまりしてないんだけど、1回ロンドンの大学のレジデンスをやった時に小沢さんと2人だったんだよね。小沢さん忙しいし作品を作るんだけど、俺全然作品作んなくって、小沢さんが「おい栗林、お前作品作れよ!」って言われて。俺が一番最初にロンドン行ったら、まず中古のチャリンコを買って、街中をチャリンコで走り回ってるだけで、何もしないの。でも小沢さんはアトリエに帰って何か作品を一生懸命作ってるわけじゃない。マジでキレられたよね。なんでお前作品つくんないんだみたいな。じゃあ料理作れって言われて、料理作ったんだけど、俺の料理が不味かったらしくて、お前の飯は不味いって言って小沢さんが毎日俺に飯を作ってくれたりとか。それこそドクメンタ10の時、俺はカッセルの学生だったんだけど、その時、日本人の3,4人組を見つけて、めちゃくちゃ日本語で喋りたかったから、日本人ですかとかって話しかけちゃって。そしたらその人たちが小沢さんたちだった。どうやらその時に昭和40年会の小沢さんとかパルコさんとかそういう人達がトークに来てたんだよね。このことを後々小沢さんに言ったら、あの時日本人いたな…あれお前栗林か!みたいな感じでさ!俺の場合はもう自分に必死だった。作品を作るっていうことよりも、そういう人達との関係でしかないから。これは俺のパターンね。俺はこうしなさいみたいなことを教えたりはできないけど、俺がこうだったっていう体験の話はできるし、こうやって人との縁が繋がっていく人もいる。そういった部分でいうと人間経験してるっていうのがすごく大切なものだから、レジデンスだろうが留学だろうが、自分がワクワクする、何かこう興味があるドキドキすることにチャレンジしていくっていうのはすごく大事。
奥村 ありがとうございます。それでは、次の質問に行かせていただきます。国内美大と海外美大に違いを感じたことはありますか?よく言われる点としては入試方法が結構違いますよね。学部だと日本の美大の学部は当日の技術的な試験を必要とする一方で、海外の美大の多くはポートフォリオや面接で決めていきます。院になるとどちらの学校も似たりよったりかもしれないですけど、それでも学生の過ごし方に違いがあったりすると思います。これに関して水野さん、いかがでしょうか?
水野 私の場合、国内美大と海外美大っていうよりは、大学の特徴の違いの話になってしまうんですけれど。一番最初の質問の時にも少し話しましたが、私が日本で在籍している藝大のグローバルアートプラクティスという専攻は、プラクティスって付いているだけあって、わりと何かものを作っていくことがベースにあります。一方で、今のアアルト大学はアカデミックリサーチベース。なのでそこのプラクティスと、論文というか論理的に研究していくっていうところの違いは一つあるなと思っています。個人的にはどっちも大事だと思っているので、どちらも学べてることはすごく恵まれているなと思っています。あともう一つの違いとしては、これは海外と日本というよりかは大学の違いになると思うのですけれども、フィンランドのアアルト大学は結構学生の繋がりが強い気がします。私がフィンランドに来る前の話なんですけど、アートの学費がカットされるっていう時に学生同士がみんなで繋がって、ソフトのデモンストレーションをやっていました。今もフィンランド政府は結構保守的な政府で人種差別だったりとか、そういう発言とかがある際にアートの学生がみんなで市内でデモンストレーションをやったりとか、何か疑問とかこうした方がいいっていうものを声に出したら、仲間が割と集まりやすい。そういうコミュニティみたいなのは結構強いのかなって思っています。
奥村 その話を聞くと、僕は学部4年間日本の大学にいきましたけど、確かに運動をしようみたいな団結力のようなものは自分がいたところではあまり感じませんでしたね。
水野 そうですね。でもそのフィンランドもデンマークも、先程ほどのお話の中にもあったと思うんですが、1人でいることもちゃんと尊重してくれるので、必要な時は頼れるコミュニティがあるけど、でも1人でいたい人は1人でもいることができるっていうところはすごく居やすいなと思います。
奥村 なるほど。ここでちょっと、上野さんにも聞いてみたいと思います。上野さんは結構長くロンドンで制作とか学生生活をされていらっしゃると思うんですけど、日本の美大との違いというよりは、御自身が今までいらっしゃったところの、こういうところが良かったなとかありますか?
上野 奥村さんがおっしゃってくれた通り、私は国内の大学に行ったことがなくて。元々私は大学に行きたいと思って留学したわけではなくて、イギリスに興味があってロンドンのリサーチをしている時に、たまたまロンドンのガイドブックを書いた著者が、ロンドン芸大のセントラル・セント・マーチンズの卒業生だったので、じゃあ私もそこに行ってみたいってことでここに来ました。大学同士で比べることはできないんですけど、日本で生活してるときと比べて、イギリスで生活してる時の方が柔軟でいれること、自由度が高いこと、選択肢がたくさんあること、こういう考え方もこういうやり方もあるよねっていうのが私にとっては良かったかなと思います。それがすごく作品にも生活にも影響しているなって。
奥村 上野さん、ありがとうございます。みなさんのお話を聞いている中で、言語についてお伺いしてみたいことがあります。日本語が母国語の人がここには多いと思うのですが、その中で英語だったりドイツ語だったり、色んな言葉を現地でだったり、色々な学び方で学んでいる最中だと思うのですけれども。栗林さんは先ほどのお話の中で、当時はドイツ語も話せなかったということをおっしゃっていましたが、その場で叩き上げで使えるドイツ語を身につけていったのでしょうか?
栗林 その言葉を喋れるか、喋れないかが大事じゃなくて、そもそも何が言いたいのかとか、何が聞きたいのかっていうのがはっきりしてる方が大事だと思う。それがはっきりしていれば、単語を並べるだけでもいいし。不思議だったのはドイツにいた時よりも、この前10年以上ぶりにドイツに帰った時の方がドイツ語を喋れていたっていう。不思議だったよね。でもそれは何が変わったかって言うと、自分が変わったんだろうね。間違ってたらどうしようとか、そういうのが若い時にはあったから結構喋れなかったりするんだけど。このくらいの歳になったらもはやどうでもよくなって、まるですげえなんか喋ってた人ぐらいガンガン喋れちゃう。だからドクメンタの時はドイツ語喋れたもんね。もちろん今は大学に入るのに語学のテストが結構多くなってきてるから、そう言う点では喋れないより喋れた方がいいのかもしれない。でも俺の時は特に、ドイツなんか学費が全くなかったから。どっちかっていうとどこの大学行きたいというよりは、お金を払わないでアトリエもらえるとかさ。その当時は語学がなくても入れるとか、そういう感じだったから。でも若い人達はそうだね。喋れないって落ち込んだりするのも大事だし、どうしても自分はちゃんと勉強してから行きたいって人はそうすればいいと思う。