2020/02/28

学術部門 奨学生交流会 in LA and Boston の開催報告

2020/02/28

今回は5名の学生に研究室や自身の学びについて紹介してもらい、近隣で学ぶ学生や専攻が近い他エリアの学生も交えて大学・研究室見学会を実施しました。

♦開催概要
1.2月8日(土) Los Angels
[参加者]
45回生 小谷 航平さん (グリネル大学 4年、 専攻:物理・コンピューターサイエンス)
48回生 関根 崚人さん (カリフォルニア工科大学院(修士)1年、 専攻:電気工学・物理学)
48回生 山口 夏子さん (UCLA1年、 専攻:天文物理学)
49回生 白井 有樹さん (UCLA大学院(博士)2年、 専攻:ロボティクス)
49回生 田久保 勇志さん(ジョージア工科大学1年、 専攻:航空宇宙工学)

2.2月10日(月) Boston
[参加者]
45回生 森本 優貴美さん (マサチューセッツ工科大学4年、 専攻:電気電子工学)
47回生 渡邊 千晴さん  (マサチューセッツ工科大学3年、 専攻:土木環境工学)
49回生 久保田 しおんさん(ハーバード大学院 Research Fellow、 専攻:物理)
49回生 澤岡 洋光さん  (ハーバード大学院(博士)2年、 専攻:物理)

 


1.交流会 in Los Angels
カリフォルニア工科大学(California Institute of Technology)訪問

カリフォルニア工科大学(通称Caltech)はLAX空港から車で約1時間のPasadenaという高級住宅地にあります。関根 崚人さんにキャンパスや研究室を案内していただきました。

Orientationで貰ったというCaltech Tシャツを着て来てくれました

関根さんは電気工学・物理学専攻、Marandi Labに所属し非線形光学を土台に主にトポロジーをはじめとした固体物理学、非エルミート物理学を研究。これらの研究を通し量子コンピューターの分野で成果を出すべく日々研究に取り組んでいます。

Caltechは、物性物理学において量子コンピューターの分野をけん引している

現在研究開発が盛んな超伝導回路による量子コンピュータでは、安定して動作させるために巨大な冷却システムが必要です。一方関根さんが学んでいる非線形光学は、冷却不要な量子コンピューターの開発に応用できるそう。

研究室にはレーザーの検出装置が

通常上の写真のようなスケールで行う光学実験ですが、関根さんはナノデバイスの開発に取り組み中。量子コンピューターの開発、更にその先の実用化において、デバイスの縮小は大きな肝。関根さんはこのチームで、修士1年生ながら理論計算やシミュレーションを任されています。

チップでの光学実験が成功すれば、量子コンピューターの実用化に大きく貢献できる

関根さんを訪ねた日は、PhD プログラムにおいて非常に重要なテスト Qualifying Exam(通称 Qual、PhD残留試験)終了後でしたが、またすぐに中間テストの課題が発表されたとのことで授業・研究と連日大忙しの関根さん。後日無事Qual合格のご報告をもらいました(おめでとうございます!)。

アトランタから参加した田久保さんと。勉強から今後のキャリアのお話まで先輩 関根さんに沢山質問されていました!

 

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles UCLA)訪問

午後は、白井 有樹さんを訪ね、WestwoodにあるUCLAに向かいました。白井さんは2020年4月から財団奨学生となる49回生。2018年に東北大学大学院 工学研究科 航空宇宙工学専攻を首席卒業し、同年夏よりUCLAへ入学。ロボティクス専攻で将来は惑星探査ロボットの開発を目指し、現在はDennis Hong教授率いるRoMeLa研究室に所属しています。

研究室の前で。”TEAM THOR”は、本研究室がDARPA Robotics Challengeに出場した際のチーム名。ジャケットの下は勿論研究室Tシャツ

惑星探査には崖面などの不整地を移動する必要があります。白井さんはそのような崖面を安定移動するためのロボットの開発に取り組んでいます。

白井さんが現在製作している壁上りロボット

白井さんはこれまでの研究で、崖面という環境下でもロボットが安定歩行できるモデル予測制御の手法の開発、また人が介入できない環境でもロボットが自律的に次の目的地を設定し、リスクを担保しつつ探査するアルゴリズムの開発に成功しています。

両端の赤い部分をつたってロボットがのぼっていく。アイオワから来た小谷さん、興味深々で白井さんに質問攻め

ご覧の通り研究室には沢山のレコードが…!

RoMeLa研究室はロボカップ6連覇の実績あり。強すぎるため現在は出場していないそう

また、作りたいものを作る!というDennis Hong教授の指導のもと学生が作った多種多様なロボットが研究室の至る所におりました。研究に必要な材料や機械の調達はある程度学生に裁量が与えられており、とても恵まれた環境だと白井さんは話されていました。

可愛いロボットも

 

夜はUCLAから程近いレストランで交流会を実施。今回の交流会では、専攻は違えど宇宙に関わる学びを探求する学生がアイオワ・アトランタからも集まり、お互いの研究内容のシェア、意見交換を行いました。

夜は山口さんも合流。男性陣はデザートまで完食

 

2.交流会 in Boston
ハーバード大学(Harvard Universit)訪問

ローガン国際空港からチャールズ川を渡り、Harvardの正門で澤岡さん、久保田さんと合流しました。二人は同じ物理専攻、財団事務局と一緒にお互いの研究室を訪問しました。

新たに財団へ仲間入りする49回生 澤岡さん。こちらは限界に近いところ(1ケルビン=-272.15℃ !)まで冷却する装置

澤岡さんはDoyle研究室所属、新たな素粒子の存在を検証する実験研究を行っています。どう検証するかというと、レーザー冷却された超低温分子を測定するのです。

研究室のガラス壁には数式が沢山

絶えず運動している分子は、温度を低下させていくと理論上運動が停止する状態になります。動きまわる分子を計測することは極めて困難なので、分子をレーザー冷却し運動を止めた状態にすることで分子に起きている物理現象を詳細に研究することが可能になる、というもの。驚いたことに、この実験は澤岡さんたちがゼロから立ち上げ、デザイン設計・必要な機能・装置の準備、そして実験までリードしているそうです!

澤岡さんがデザインから設計まで行った、分子を減速させるための超伝導電磁石を冷却する装置

澤岡さんは、素粒子という最も複雑な分野において、現存する素粒子の標準模型を超越した、つまり既存の物理法則では説明できない新たな事象の発見を目指して日々研究に励んでいます。

Doyle研究室の一員になるためにはこのスキルも必要とのこと

 

続いて、同じく49回生久保田さんの研究室へ。久保田さんはリクルート財団44回生のOG。マウント・ホリヨーク大学を卒業後、HarvardでResearch Fellowとして素粒子物理学の研究に従事しています。そしてこの度大学院進学が決定(おめでとうございます!)、財団の選考会を突破し2020年4月より49回奨学生として財団奨学生へ復帰することとなりました。

Harvard物理専攻チーム。「最近注目している論文は!?」と物理談議に花を咲かせておりました

彼女はGuenette研究所に所属し、現在世界最大規模のニュートリノ実験DUNEに携わっています。

この研究室では大規模実験に向けたプロトタイプの実験を行っている。奥の装置はニュートリノの質量を検出する装置

このプロジェクトでは、ワイヤーによるニュートリノシグナルの検知を行っています。これまでのシグナル検知には多大な時間・労力がかかるものの正確なデータを検出できない、という課題がありましたが、久保田さんは効率化・正確性向上を備えた革新的な試験方法の開発に日々取り組んでいます。

久保田さんが開発した装置。更にここにワイヤーをはりめぐらせていきます。ほんの少しの配置ずれが命取りに…

プロジェクト推進において必要なリソースを惜しみなく使えるHarvardの環境はとても魅力的、と語る久保田さん。またGuenette教授は素粒子物理学の分野で活躍する女性研究者。若いながらも世界各地の研究者と最先端の研究を次々と行う彼女を、久保田さんは研究者としても女性としてもロールモデルとして尊敬しているそうです。

この研究を通して地道に、コツコツやり続けることも大きな強み、必要なスキルだと学ぶことができた、と明るく話す久保田さん

 

マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology/MIT)訪問

Harvardから車で10分程にあるMITへ移動し、45回生 森本さんと合流後彼女の研究室を案内してもらいました。彼女は学部4年生ですが、量子ナノストラクチャー・ナノファブリケーショングループ(Quantum Nanostructures and Nanofabrication Group, Prof. KarlBerggren)で約3年間研究を行ってきました。

最初面接時は高校生だった45回生 森本さんも、もう大学4年生

彼女の研究テーマは、超伝導薄膜を用いた単一光子検知器で、デバイスの研究を行っています。ファブリケーションは電子ビームを用い、数十ナノメートルから数マイクロメートルレベルの構造を作成するため、デザイン通りのデバイスの作製には試行錯誤を要したとのこと。

この薄膜をクリーンルームに持っていき、デバイスを作成する。

研究と並行し、学部卒業に向けて論文の仕上げにとりかかっているとのことです。2020年秋から引き続きMIT修士課程に進学することが決定しています(おめでとうございます!)。引き続き彼女の活躍を応援できることを財団一同とても嬉しく思います。

 

夜は、Harvard×MIT学生交流会を実施しました。研究の話から日常生活の話まで話は尽きず、世界で活躍する学生のパワーに圧倒されながらBoston名物のクラムチャウダーを美味しくいただきました。

奨学生とその友人たち。偶然同じタイミングでBostonに来ていた財団奨学生OGも参加。若者のエネルギーに圧倒されました