2020年12月19日(土)13:00開演 イイノホール
2020年の年明けには予想もしなかった新型コロナウイルスの感染拡大により、次々にリアルのコンサートが中止や延期に追い込まれました。そんな中、12月のスカラシップコンサートは是非リアルで開催したいという強い思いで、安心安全を確保しながら何とか開催にこぎつけました。同時に、オンライン配信も行うという初めての企画にも挑みました。
奨学生の皆さんもなかなか演奏を披露する機会が無く、辛かったのだと思います。その思いを晴らすかのように、自主練習、リハーサルに励んでいました。そんな奨学生達の姿に励まされながら、何とか無事にリアルのコンサートと配信を終えることができました。演奏者、観客、視聴者、関係者全員にとって、いろいろな意味で忘れられない特別なコンサートになったと思います。
今回のコンサートは配信を行うこともあり、配信を聴いて下さる方々に向けての企画として、リハーサル風景や演奏者全員のインタビューを休憩時間に挟みました。また、配信では奨学生が各曲の聴きどころを語ってくれました。以下にご紹介します。
I. フォーレ:ピアノ5重奏曲 第2番 ハ短調 作品115
戸澤采紀(第1ヴァイオリン)、吉田南(第2ヴァイオリン)、田原綾子(ヴィオラ)、
上野通明(チェロ)、小林海都(ピアノ)
【ピアニストの小林海都さんによる曲紹介】 フォーレの曲の特色は、ハーモニーの動き方にあると思いますが、この5重奏曲には絵画のような大きなスケール感があります。リハーサルでメンバーと一緒に弾いていて、この曲の持つエネルギーやパワーに圧倒される位のスケール感を感じています。一方、第3楽章は他の楽章とは対照的に天国的な美しさがあります。
II. ブラームス:ピアノ三重奏曲 第1番 ロ長調 作品8
外村理紗(ヴァイオリン)、水野優也(チェロ)、反田恭平(ピアノ)
【ピアニストの反田恭平さんによる曲紹介】 最初のチェロのソロもそうですが、充実した濃厚さが人の心の琴線に触れるようなメロディーが大好きで、まさにこのコロナ禍でぽっかり穴があいたような気持ちにぴったりな曲です。第2楽章は、最初は壮大なゆったりした旋律で始まりますが、途中早くなり、ダンスのような要素もあります。第3楽章は、光が差し込んでくるような素晴らしい音楽です。
III. ラヴェル:ヴァイオリン・ソナタ ト長調
周防亮介(ヴァイオリン)、阪田知樹(ピアノ)
【ヴァイオリニストの周防亮介さんによる曲紹介】 各楽章、それぞれ個性が異なり、そこが魅力です。第2楽章は普段なかなか弾くことのないジャズっぽい雰囲気があり、第3楽章はアクロバティックな無窮動的な曲でもあります。ピアノとヴァイオリンが支え合う場面もある一方、対比や全く違ったものを弾いていたりして、面白い曲です。
IV. メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲 第1番 ニ短調 作品49
辻彩奈(ヴァイオリン)、上野通明(チェロ)、桑原志織(ピアノ)
【ピアニストの桑原志織さんによる曲紹介】 メンデルスゾーンの作品というと、美しいメロディーと整った上品な音楽というイメージがあるかと思いますが、この曲は、優雅さだけではなく、哀愁やロマン、また溢れ出るような力強い歌もあります。各楽章、個性があるのですが、最後は3人で一体となって壮大なクライマックスを迎える作品となっています。
V. シューマン:ピアノ5重奏曲 変ホ長調 作品44
北川千紗(第1ヴァイオリン)、前田妃奈(第2ヴァイオリン)、田原綾子(ヴィオラ)、
水野優也(チェロ)、小林愛美(ピアノ)
【ヴァイオリニストの前田妃奈さんによる曲紹介】 第1楽章は、柔らかくて温かい音色のビオラとチェロの掛け合いがきれい。第2楽章は、最初は暗いのですが、途中で第1ヴァイオリンがすごく美しいメロディーを奏でます。第3楽章は、駆け上がっていく感じ。転調を何度も繰り返して嵐のようにエネルギッシュ。第4楽章の最後には、壮大な建造物を作り上げていくようなクライマックスを迎えます。
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◆アンコール S.V.ラフマニノフ: 絵画的練習曲 変ホ短調 Op.39-5
ピアニストの阪田知樹さんは、奨学生として7年間江副記念リクルート財団に在籍し、今回が奨学生として最後の演奏となりました。そこで最後にご挨拶とアンコールをお願いしました。同じピアニストである桑原志織さんとの会話の一部をご紹介します。
桑原志織さん: 演奏の前に、せっかくですのでこの7年間の奨学生としての活動の中で、思い出深いエピソードなどございましたら一つお話しいただけますでしょうか。
阪田知樹さん: 私が7年間こちらの財団にお世話になり、コンサートに参加させていただくようになってすごく思ったことは、他の楽器の方々、例えば今お聴きいただいた弦楽器の方々と一緒に音楽を作る機会がある、そして一緒に交流することができる、これはなんと尊いことかと、毎年毎年この演奏会を迎える度に感じておりました。
演奏をするとき、そしてリハーサルをしながらいろいろと音楽について語るときはもちろん、またそうでなくても例えば本番の間も割と裏でお会いすることとかお話しすることがありましたので、そういうときに同世代の素晴らしい音楽家の方々と一緒に演奏することが出来て、交流出来たことは、本当にかけがえのない宝だと思っております。
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演奏後、間違いなく演奏者全員が感じていたのは、お客様の前で演奏し、同じ空間を共有すること、また曲に込めた思いを直接伝えることが、自分たちにとってどんなにかけがえのない、価値のあることか、そして聴いて下さった方々からの温かい拍手がどれ程励みになるか、ということだったと思います。終演後の満ち足りた弾けそうな笑顔が物語っていました。
聴き手も同じ空間でその思いを直接受け取ることができ、心を揺さぶられ、力をもらえたと思います。別世界に誘われ、コロナ禍で日々感じている不安を一瞬でも忘れることができ、元気をもらえた演奏会でした。
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それでも、遠方の方々、様々な事情で会場に来ることができない方々等、一人でも多くの方に配信で演奏を聴いていただけることは、演奏家にとって有難く、嬉しいことに違いはありません。実際、配信では大きなホールを満席にする以上の方々に聴いて頂くことが出来ました。
今回のコンサートは、配信を行うこともあり、配信を聴いて頂く方々に向けての企画も工夫しました。事前に撮影したリハーサルの様子や演奏者全員のインタビューも休憩時間に挟み、演奏者の素顔を垣間見ていただくことができたのではないかと思います。ほんの一部ですが写真でご紹介します。
【リハーサル風景】
【インタビュー】