2024/08/04

2024/7/10「海外美術大学留学と制作について」小林颯個展 × リクルート財団 トークイベント 開催報告

2024/08/04

2024年7月10日、「海外美術大学留学と制作」をテーマとするトークイベントが、江副記念リクルート財団卒業生の小林颯さんの個展「ポリパロール」に併せてアートセンターBUGにて開催されました。本トークイベントは、卒業生である小林颯(ベルリン芸術大学大学院修了)、現役財団生である大竹紗央(ニューヨーク大学大学院在籍)、上野里紗(セントラル・セント・マーチンズ 修士課程修了)、中岡尚子(ベルリン芸術大学在籍)の計4名が登壇。海外で学ぶ経験がどう制作に影響を与えるのか、留学する中で感じる文化の違いや日本の芸術大学との違いとは。登壇者の4名による率直な”おしゃべり”は、生活スタイルの違いから学校ごとの授業システムの差異まで及び、土地や人ごとに異なる留学の経験を明かしました。


小林 :我々、日本の美大や芸大を経由して留学した二人(小林・中岡)と、日本の大学に通わずにストレートで海外へ行った二人(上野・大竹)という二手に分かれると思うんです。(ストレートで行かれた方々は)日本の教育システムに何か疑いみたいなものを感じてたんですか。

上野 :半々ですね。イギリスは学部が3年制なんですけど、その前にセカンダリースクールかカレッジ、もしくはファウンデーションコースっていうのがあって、私はその1年のファウンデーションコース、 日本でいう大学の1年生、スコットランドで言う大学の1年生の分を東京でしました。ファンデーションコースからイギリスに行きたかったんですけど費用の関係で日本の方が安いっていうのと、日本の教育システムを少し見てみたいなっていう。それで日本のファンデーションコースに通うことにしました。


小林:なるほど。日本と海外でどう違ってるのかをあぶり出していきたいなと。まず日本だと専攻分野が分かれますよね。中岡さん、音響で学部の時はどんなことを学びましたか。

中岡 :音楽環境創造科という学科では、音響とアートプロジェクトと創作という3つの専攻が用意されてて、 一年生の時はそれを幅広く学ぶみたいな形式でした。その後音響と専攻を決めてからは実際にスタジオでレコーディングやミキシングしたりとか、あとアニメーション学科の人の映像の音響を担当したりとか、 技術的なこととそれを自分の考えてることと組み合わせてどう伝えるかみたいなことを学んだと思います。

小林 :そこからベルリンに留学しようと思った?

中岡 :作品を作ることにすごい面白さを感じ始めてた時に、私が通ってた音楽環境創造科の修士課程はどちらかといえば音響のアカデミック路線で、修士論文じゃないと修了できないっていう条件だったので、作品制作で修了できるサウンドアートの修士をネット検索して比べていったみたいな感じです。

小林:向こうでどういう教育だったのかも気になります。

中岡:ベルリン芸大のサウンドスタディーズは、自分が出た芸大の音楽環境創造科と似ているなとも感じます。サウンドスタディーズアンドソニックアーツという名前の通り、リサーチとプラクティスの両軸があって、リサーチの方は結構論文を読んで書いてみたいなことが求められます。

小林:そうですよね。自分も同じベルリン芸術大学の違う学科アートアンドメディアっていう自分の学科から見て、サウンドスタディーズはカリキュラムがガッチガチに組まれてて、みたいな認識がありますね。自分のところは逆にクラス制です。自分の学科は実験映画とかジェナラティブアートとか、あとは映画、 ニューメディアとか、そういうゼミがあって、基本はゼミベース。 そのゼミに所属して、週1学生が各々の制作の進捗発表をして、という感じ。


中岡 :ということは、1人のスーパーバイザーが自分の作品の変化を追ってくれてる?

小林:そうですね。

中岡 :逆にサウンドスタディーズはクラス(授業)がたくさんあります。例えばバイオダイバシティアンドサウンドとかテーマごとに授業があって、学生は各々自由に選んだ授業に参加していくので、 自分のストーリーとか今までどういう作品を作ってきたかみたいなものを追ってくれている先生がいないなと感じます。

小林:それは入ってからわかったんですか。

中岡:そうですね、入ってからです。

小林:そういうところは難しいですよね。お二方はどんなカリキュラムを経て来ましたか。 

大竹 :私は17歳の時にアメリカに渡ったんですけど、 その前までは普通に日本の美大に行こうって思ってて。でもやっぱ高校生って周りからのサポートをもらえないと、なかなか自分の意思を押し通すのって難しいと思うんです。私が美大に行きたいですって言ったら、高校の先生に「あなた何を考えてるの」って。自分のいたコースは理系だったんで、もちろんその人たちからしたら何考えてんだって思われて当然だと思うけど。 親からも反対されて。でもやっぱ諦めきれなくて自分で色々できることをやってたら、父親がアメリカに単身赴任するらしいってことを聞いて、じゃあちょっとこれに乗っかりたいって思ってどうにか説得して、17の時にアメリカの高校に編入して、そこから1年半ぐらい必死で英語とポートフォリオを作って、 シカゴ美術館附属美術大学に合格しました。そこで4年間勉強したんですけど、シカゴ美術館附属美術大学は そもそも自分の専攻を決めなくてよくて、ファインアートっていうおっきな傘の下に、彫刻だったりサウンドだったり建築とか色々なデパートメントがたくさんあって、自分が好きなように取っていく。 人によっては、サウンドを取りながら絵画取ってる人もいたりとか、建築とりながら彫刻とってる人がいたりとか、そういう風に分野の垣根を越えて学んでいくことで、新たな分野を自分で作り出しちゃった人がいたりとかすごく自由のきいた場所で。私自身も学部生の時に建築とサウンドと、あとアートアンドテクノロジーと彫刻の授業をとってて、 その中でも特に大学2年の時、2020年ぐらいの時に、ちょうどパンデミックが発生して実際の場所で展示できなくなった時に、アートアンドテクノロジーっていうデパートメントの授業をずっと取り続けてたんですね。なんで取ってたかって言うと、その授業は、どうやら実際の場所に行って何か作らなくても、コンピューター上だけでできるらしいっていうので。

最近クリエイティブコーディングっていうフィールドがありまして。アーティストのためのコーディングみたいな感じで発展していった分野だと思うんですけど、その先駆者にダニエルシフマンDaniel T. Shiffmanっていう人がいて、その人が今私が在籍しているニューヨーク大学で教えてて、あとさらにダニエルロジンDaniel Rozinっていう彫刻とテクノロジーを掛け合わせたことを1900年代からやってるおじさんがいて、その人もニューヨーク大学で教えてるっていう。Wooden Mirrorっていう、人がこう目の前で動くとその人の形になって動き出すっていう不思議な彫刻を作ってる人で、この人もどうやらニューヨーク大学の私の今いるデパートメントで教えてるらしいっていう。 分野の垣根を越えて勉強できる学部の環境で見つけた興味を大学院で深掘りしようってなった時に、じゃあこの2人の先生がいるところで勉強できたらもっと自分の作りたいものが作れるんじゃないかって思って、ニューヨーク大学の今のITPっていうところに来ました。ダニエルロジンもダニエルシフマンもすごくチャーミングな先生です。ドイツはどうかわかんないですけどアメリカの先生は、教えてくれ教えてくれっていくと、最初は「また来たこいつ」みたいな感じの態度取られるんですけど、何回かしつこくくっついてくうちに仲良くなって、 そういえばこの前のこの作品どうなったんだって追ってくれたりして。さっきのスーパーバイザーハンティングじゃないけど、私自身も機会があるんだったら掴みに行きたいって思うタイプなので、そういう人間には多分ニューヨーク・アメリカって向いてんのかなっていう風に思います。

小林:うんうんうん。面白そう。2つの教育機関を経験してるから、絶対そういう違いがありますよね。カリキュラムだったりとか雰囲気だったりとか。ざっくりどういう違いがあるかって言えますか。学部のシカゴとニューヨーク大。

大竹 :学部はやっぱりいろんなデパートメント/専攻をとってよかったから、 あまり専門性を極めることができなかったんですけど、大学院はさっきも話した通り、アートとテクノロジーの中間地点ってことで、 みんな何かしらテクノロジーを含めて作品を作ってるんですね。なので比較的学部よりかは専門性が高い。より専門的な質問を先生にできるっていうので、すごくいいなって思ってる。

小林:自分から見てITPは日本人も結構たくさんいらっしゃるような環境で。

大竹 :いないんです。私の学年で1人で、1級上に1人。先生にも1人だけいるだけで。あとは他の国だったりアメリカだったりで、日本語を喋る機会が全くなくて。

小林 :美術をバックグラウンドに持っている学生が多い?

大竹 :いやそれもまちまちで、人によってはエンジニアのバックグラウンドだったり、あと心理学とかサイエンスやってた人もいたりとかして。 エンジニアとかならアートを勉強したいって思ったからITP来たんだってわかるんですけど、心理学者だったり社会学者とかサイエンティストになんで来たのって聞いてみたら、 「自分が学んできたことを社会に還元するときに、アカデミックなまま外に出しちゃうと分かってくれる人がいないから、そこにアートっていうものを加えることで、もっとこう人の生活にこう近づけるようなものにしたい。そういう風なテクニックを学ぶためにここに来た」っていう風に言ってました。

小林 :じゃあ評価の軸も違いそうですね。自分が日本の美大にいた時は、パッと見の面白さだったりとか、これはこの文脈ね、わかる、っていうアウトプットの質みたいなところに結構重きを置かれてた気がして。でも多分ITPだと、そもそものバックグラウンドが異なる学生たちの集合体だから評価が違いそうだな。

大竹 :全く違うので、アートがバックグラウンドの人からすると物足りないのかなって思う。多分芸術系の大学だと、 コンセプトがどのぐらい深いか、どのぐらい社会と繋がってるかとか、どのぐらい練られているかってことも考慮されて、それがどれだけビジュアルに落とし込まれてるのかっていうのも見られると思うんですけど、ITPはコンセプトからできた作品っていうよりも、例えば授業で習ったこのセンサーの動きが面白いとか、モーターのこの動きが面白いから、この動きをもとに何か作品を作ろうみたいな感じの作品が多いので、発想の面白さがやっぱり評価されがちですかね。そのコンセプトだったりとかよりかは。それなので、 純粋美術を勉強してきた学生からは不満が出たりとかも。