小林 :なるほど、その辺上野さんのいた学科はどうなんだろう。ちょっと近いような気もして、ちょっと遠いような気もする。
上野 :アートアンドサイエンス。そうですね。多分大竹さんと多分1番近いんじゃないかなと思ってて。私のクラスも皆さんバックグラウンドが違うんですよ。私も1人だけテキスタイルデザインのバックグラウンドで、他は神経科学の人だったりとか看護師さん、英語の先生、心理学者の方、あとはペインターの方、画家の方、建築、本当にバラバラなんですけど、 コース的にはアートアンドサイエンスのアンドの部分ってなんだろうっていうのが問いのコースで。個人個人でその目的は少しずつ違うんですけど、その間を模索していくようなコースですね。私がセントラルセントマーティンズを選んだ理由の一つが、学生の作品が好きだからっていうのがあって、先生とかよりも学生の作品で選んだのが私は大きいです。
小林 :好きな作品はありますか。
上野 :そうですね。今はなくなっちゃったんですけど、好きだったファッションデザイナーの方で、ミーダムカーチョフMeadham Kirchhoffっていう。そのファッションショーがすごくアート的で。ダンサーを呼んだりとか。プロセスも凝ってて、手作業が多い服になってるんですけど。これが産業としてプロダクションとして成り立つんだって思ってすごく面白いなっていうのがあって。 あとはファインアートの卒業生で音楽をやっているM.I.A。
小林 :どこで知ったんですか。
上野 :たまたま見た映画のそのサウンドトラックが彼女だったりとか。 たまたまが多いかもしれない。
小林 :なるほど。そのたまたまが積み重なってアートアンドサイエンスに行かれたということ?
上野 :そうですね、アートアンドサイエンスには私はテキスタイルデザイン(のバックグラウンド)から入ってるんですけど、テキスタイルで何ができるんだろうっていう問いがあって。 私は数学が好きなので、じゃあそのテキスタイルと数学で何ができるんだろうってなった時に、その関係を模索するのはアートアンドサイエンスがいいのかなと思ってそのコースに決めたんです。コラボレーションが重視される学科かもしれないですね。
大竹 :うちもそうです。上野さんのところじゃあるかわかんないですけど、うちはバックグラウンドが違うのでそもそも思考言語が違う。私は割とフィーリングベースの言語で話してて、この前一緒に作品作った人がソフトエンジニアの人ですごいロジカルにものを考える。私が感覚的にここはこうだと思うって言うと、どうしてそう思ったのって言われて。感情ベースで自分の感情とか美的感覚的にはこうだからこういう風になってるって言うと、それは全然ロジカルじゃないとかって感じで結構行き違いがあったり。何を美しいと思うのかとかも全然違って。美術大学にいると、実際の社会の中の仕組みに入りながら制作するのとはちょっと違うような気がして。今自分のいる学科にはいろんなバックグラウンドの人がいるから、その人たちとあえて衝突しながら作品を制作することで、自分の思ってることって当たり前じゃないんだみたいな風に思いながら、作れるのが面白いなって。
上野 :それはすごくわかります。
小林 :どんな感じでコラボレーションが行われるんですか。ペアそれともチームみたいな?
大竹:うちはペアだった。基本的にクラスの中で出されるアサインメントはペアです。
小林 :どんなアサインメントが出されるんですか。
大竹 :私が直近でやったのはエナジーっていうクラスで、テクノロジーとアートの境目の学校なんで、授業もそういうのが多くて、エネルギーを作り出すのにいろんな方法があると思うんですけど、その時は 太陽光発電を用いて作品を作るっていうプロジェクトで。どんなテーマでもいいんですけど、とにかく光エネルギーを使って作品を作りなさいっていうので。 一緒に作った人がソフトエンジニアで、作りたいものも違って、でもなんとかすり合わせて作っていくっていう。自分1人で作ってる時には、全く自分の好きなものを作ればいいので、関係ないんですけど、その時はそういう風なコラボレーションでした。
小林 :どれぐらいのスパンなんですか?
大竹:1ヶ月です。
小林 :じゃあもう1か月そのエナジーに没頭する時間?
大竹:いや、でも他の授業もあるので、その他の授業の作品を作りながら、コラボもしながら。ここもちょっと違うことかもしれないんですけど、うちの大学院は大学院生なのに授業取らなきゃいけないんですよ。だから制作に一番没頭できるのはできるのは2年生の最後。マスターを取るための修了制作の時だけで、あとはもう授業です。例えば自分がサボり家で、あえてこう授業の課題っていう形で、お尻を叩かれながら制作するのが好きな人はいいかも。アメリカの大学院って、基本的に美大にしろ授業がずっとあると思います。
小林 :なるほど。
中岡 :私の大学院も授業があるんですけど結構特殊で、 4月から7月までは夏学期、10月からは冬学期なんですけど、私の大学院は3年間あって、 今の夏学期は授業がすごいたくさんあるんですね。それを取らなきゃいけない。先週夏学期の授業が終わって、そこから来年の4月までは全く授業がなくて、学校にも行かなくていいし、ベルリンに住まなくてもいいんです。プロジェクトフェーズって言って、各自でエキシビションしたりとか論文書いたりとか、もう自由に放牧される期間。人によっては(アーティストイン)レジデンスに行ったりとか、実家帰ったりとかして、そしてまた次の4月から 3ヶ月間授業を取って(フォーカスフェーズ)、再びプロジェクトフェーズっていう、すごい緩急があるんです。 プロジェクト期間は自分でモチベーションをキープしなきゃいけないけど、 フォーカスフェーズは課題がいろんな授業から出るのでいろんなテーマが自分の中で並走して、課題のために作品を作るみたいな授業時期です。
小林 :今頭に思い浮かんだとかお気に入りとか好きだった授業はありますか。
中岡 :お気に入りの授業は、ドメスティックサウンドスケープっていう授業が好きで面白くて。10人くらいクラスメイトがいて、 1人1人の家に行くんです。授業がそこ(クラスメイトの家)で開催されて、その場所で聞こえる音を聞いてみたりとかメディテーションみたいなことをして。授業もちゃんとするんです。例えば、以前は田舎町に住んでた人が都市に引っ越してきて、隣の家の音とかが聞こえないことによって不安を感じるとか、いろんな人のエピソードに触れたり、実際にそういうトピックの論文を読んだり。ドメスティックサウンド、例えば音の環境が生活にどう影響するかという。論文の例だと、難民キャンプや被災地でどういう音が聞かれてるのかという非日常のサウンドスケープも取り扱うし、 毎日の日常の音も扱うっていう授業です。ベルリン芸大の授業は私からすると比較的アカデミックよりの内容が多いんですけど、その授業はすごく自分自身でいられる時間だったので、すごく好きで面白かったです。
小林 :興味本位なんですけど、難民キャンプと被災地の音を実際に聞きに行くんですか?
中岡 :実際に聞きに行くんじゃなくて、論文、そのリサーチャーの人が書いた論文を読んで、その人が録音した音を聞く。そうすると難民キャンプの中は民族ごとに固まってたりするので、角を曲がると言語が変わったりとか、曲がると子供たちの声がしたりとかいうことが書かれてました。 時々、音楽コミュニティが出来上がったりとか。どっちかというとコミュニティベースの話でした。
小林 :そうなんですね。大竹さんは今はどんなフェーズですか。
大竹 :うちの大学院は2年制で今は1年目が終わった。これから2年目が始まる。 さっき言ったみたいに、うちは1年目前期後期、2年目前期後期で、2年生の後期までは1つのテーマで制作するっていうのがなくて、もうずっとインプット、インプット、インプットみたいな。でもその間にも、例えば自分で学校の外のショーとかにアプライ(応募)して、 ニューヨークって結構いろんなギャラリーだったりとかいろんな団体があって、日常的にそういうところのオープンコールに応募して、受かったらそこで展示するみたいな感じの機会が結構あって。授業で作ったものだったりとかをそのままオープンコールに出して、合間合間に自分で好きなようにインプットからアウトプットをするっていう風なことを私はしてました。