小林 :ありがとうございます。ぼちぼち質問コーナーに移っていきたいと思います。
−−−質問:「入学してよかったと思うことと、想定外にしんどいなと思うことそれぞれ最初に何を思いつきますか。」
小林:自分は想定外にしんどいのはやっぱりアジア人差別を日常的に受けること。外出て歩いてた時に、車から生卵ぶつけられるみたいなマジかみたいな出来事があって、外出ても差別用語を子供からなんか言われたりしますし、それはしんどい。 それはドイツに行かないとわかんなかった出来事ですね。ありますか?よかったと思うことでもいいですよ。
中岡 :たくさんあると思います。やっぱり留学してよかったのは、仲間が増えたこと。 新しい場所を見つけて、新しい言葉を見つけて、すごい当たり前にそういうのはよかった。食べるものが変わったりとかも良かったし、しんどいなっていうのは、大体人間関係で悩んでます。 大体しんどいなってのも人間関係。シェアハウスとかかな。
大竹 :意外に自分の国のことを知らなかった時。やっぱりアメリカは政治とか歴史の話をするのが好きな人が多くて。歴史の話になるとどこの国で学んだかによっても変わってくるし、誰が語るのかによっても変わってくるから、そうするとその自分を守るためにも歴史のこと知らなきゃいけないなって思う。特に今の学校に行ってから、韓国、中国とかの人が多くて、やっぱそうするとお互い認識が違って、お互い「は?」って思うこともあったりとか。でも私が学んだ歴史がもしかしたら間違ってるかもしれないし、いろんな視点から学ばなきゃいけないって思って、自分の無知さにしんどいなって思ったことが結構ありましたね。
小林 :その学生だったり友人、尋ねてくれた友人と議論するみたいなことが起きるんですか?歴史について聞かれる時、毎回議論が起こるんですか?
大竹:世界中で戦争が起きてて、それについて話してる時に植民地の話になって、 日本がいろんなアジア圏の国を植民地してた時のことを、ある時普通に フランクに話してた時にぽって出されて、うってなったりとかして。彼らはみんな、別に今の私たちがそれをやったって思ってなくて、昔の軍国主義の時にそういうことがあったっていう風に、国家と国民のことを分けて考えてくれてるので、決して私のことを非難してるわけじゃないけれど、でもそのことを聞いた時に、話せない自分っていうのがちょっとしんどいなって。多分日本の中にいたら、そんなに学ばなくても生きていけるけど、外に出たら日本を外側から見てる人たちと接することになるので。そうするとやっぱり、そういう風に歴史の認識みたいなのは、 なんかある程度知らなきゃいけないんだって思って考えてました。
小林 :上野さんはどうですか。
上野 :留学してよかったなって思うことの方が多いんですけど、唯一嫌だなって思うのはビザとかの行政手続き。 自分の力ではどうにもできないっていう部分が出てくるので、そこはちょっと一番嫌だな。それ以外はもう本当にイギリスが大好きです。なので私は全然日本に帰ってなかったんです。
小林 :イギリス大好きなんですね。 どういう部分が一番好きですか。
上野 :多分ロンドンに限るかもしれないんですけど、いろんな人がいたりだったりとか、 あとは嘘かなって思うかもしれないけど、食べ物だったりとか。 フィッシュアンドチップスとかお茶に対しての熱意だとか。 あんまりイエス/ノー方がはっきりしてないっていうのも心地がいいのかなって。そういうのは日本と似てるけど違うみたいな。難しいですね。日本じゃないけど日本と近いものを感じるから、多分生きやすいのかなっていうのはありますね。 単純に文化が好き。マーケットがたくさんあったりとか。
中岡 :マーケット、いいですよね。私はドイツに行って量り売りで買えるのがすごい嬉しくて。スーパーマーケットとかで包装されてるものだと、量が決められてて選択肢が少なくて、でも量り売りとかマーケットだと旬がわかったりとか自分に必要な量を知れたりとかがすごくいいなって。
小林 :それと関連して重ねていくと、お金回り大変ですよね。美味しい食べ物食べるにもめちゃめちゃお金かかるじゃないですかきっと。 その辺どうやって対処されてますか。
大竹 :めっちゃバイトしてます。学内バイトが結構あるのでバイト戦士ですね。
小林 :週何日ですか。
大竹 :セメスター中は週5ぐらいでずっとなんか働いてて。大体週4、週5ぐらいで働いてます。でも働ける時間数が決まってて大体20時間、そこで稼げるだけ稼いで 貯めたりとか疲れた時に外食に行ったりとか。時給が学校の中だと結構いいんですよね。1時間28ドル。学生のプロジェクトの木材加工、金属加工だったりとか、コーディングのデバッグだったりとか、そういうものを手伝う工場みたいなところで学生バイトしてるんですけど、結構お金が出るので、そういうところで学校から絞れるだけ絞ってって感じですね。
中岡 :かかるお金っていうのは都市によって違いそうですよね、ニューヨークは?
大竹 :ニューヨークは結構高いですね。やっぱり物価も高いし、住む場所も安全性をやっぱ考慮したいとするとドアドアマンがいたりとかセキュリティがしっかりしてるところに住もうってなると、結構お金がかかるんですけど、最近ライフハックを見つけて、 どうやらお年寄りは家賃が安くなるらしいという話を聞きまして。なので今、私は70後半ぐらいのおばあちゃんとルームシェアしてて、 おばあちゃんがお部屋を持ってて、私はその1部屋のベッドルームを借りて、リビングとキッチン、バスルームを共用で 一緒に使うんです。自分の個室があるので、あまり自分が良くないムードで誰とも話したくない時は、ずっと部屋にこもってたりとかして。そういう感じで家賃も安くなるので、 意外とニューヨークの学生はお年寄りの方と住んでる人が多いみたいですね。
小林 :上野さんはお金回り、どう対応されているのでしょうか。
上野 :そうですね、ロンドンは日本円で換算しちゃうとすごい高いっていうのと、都市なんで物価が他のイギリスの年より高いっていうのもあるんでご飯はほとんど自炊で。あと週1で、近所の方と集まって一緒に作って食べるっていうのをやってて。みんな違う国から来てるんで、いろんな創作料理が食べれるっていうのが楽しいですね。
小林 :言語系の質問が結構パラパラありますね。自分はベルリンなんですけど、ベルリンは割と英語でも通用していける都市だなと自分は思ってて。ただスーパーだったりとか役所に行くと、絶対ドイツ語じゃないといけないみたいな。 だから必要最低限は話せないといけなくて、(大学院の)入試受ける時とかもドイツ語の試験が必要だったんで、自分の場合は語学学校行きながら芸大の院に行ってみたいな感じの生活をしていました。中岡さんは?
中岡 :私の学科はオールイングリッシュなんで、ドイツ語は必要なかったし、卒業するまでにも必要ないので、そんなにドイツ語話者は多くないです。クラスメイトが20人いたら2人ドイツ人で、あとはみんなインターナショナルなので、ドイツ語喋らなきゃっていうプレッシャーもあまりないですね。でも卒業した後は、仕事の面とか生活の面とかでドイツ語がすごく重要になると思うので、 それを考えてドイツ語を勉強してるみたいな感じです。
小林 :お2人は英語ですもんね。
大竹 :英語ですね。
上野:ずっと英語ですね。
小林 :どういう感覚ですか。自分は英語の本を読む時、よいしょ、さあ読むぞみたいな感じなんですけど。
大竹 :例えば今回日本に帰ってきて、アメリカに戻るぞってなった時は、多分よいしょってしなきゃいけない。 でも普段日常的に生活してる分には周りにほとんど日本人がいないから、もうずっと英語で、日本人に会った時に日本語喋んなきゃってなると、うってなるっていうのが結構あります。
上野 :同じ感じですね。
小林 :逆に日本語が出てこなくなりますか。
大竹 :なりますね。でも日本人が少ないから、その学科の人たちが結構珍しがって、日本語教えてくれよみたいになる。そういう時に日本語を教えることはあるけど、自分の方言を教えたくなっちゃって。出身が愛知県の岡崎なので三河弁を布教してます。何か食べなよっていう時に「食べりん」とか、 そうだよねっていう時は「そだら」とかっていう風に言うので、そういう風なアクセントを教えて、今うちの学科の人たちが日本語喋る時は、三河弁で喋る。なかなか喋る機会がないと忘れがちですよね。
上野 :そうですね。特に対面がないと、どうやって間を取っていいかとか、すぐ自分の言いたい日本語が出てこないっていうのはたくさんあるかもしれないです。
小林 :そこから派生させて息抜き的な話に繋げようかなと思うんですけど、お2方含めて制作の時に家帰って、例えば日本語のyoutubeを見たりしますか。息抜きどうやってんのかとか、息抜き中の言語とか気になります。
上野 :私の息抜きには言語が多分ないです。 逆に言語コミュニケーションがあんまり得意ではなかったので、クリエイティブの方に行ったっていうのがあるので、 本当にいっぱいいっぱいになるとなるべく見たくない。両方の言語とも。
小林 :何してるんですか。
上野 :最終的には寝る。食べる。散歩する。長時間散歩。
大竹 :私も長時間散歩しますね。マンハッタンの自分の住んでるところから、MOMAがあるところまでばーって1時間半かけて歩いたりとか、蛇行しながら隠れ画的なカフェとかを見つけて、それをgoogleマップに登録して、じゃあ今度誰かと会う時にここ行ってみようとか。金銭的な面だったりとか自分のエネルギー的な面でも、ニューヨークにあとどのぐらいいられるのかはわからないので、いられるうちに色々模索しようってので。 マンハッタンとブルックリン、その島とまた別の島があって、その間を橋が何本かかかってるんですね。その島を歩いてみたりとか。 そうすると制作からちょっと離れてるような気がして、リフレッシュできていいな。長時間散歩っていいですよね。
小林 :歩いたらMOMAがあるっていうのはすごいすごい。いいな。 中岡さんも散歩しますか。
中岡 :夏はしますけど、冬は外にいるのが寒すぎる。
小林 :わかります。天気ね。
中岡 :春が来た時に、本当に自分の制作のモチベーションが全然変わって、いろんな街も歩くようになって、自分の近所を知って、遠出もするようになって、なので季節によって制作との距離感が変わるなっていうのがあります。
大竹 :ベルリンの冬は雪なんですか。曇り?
中岡 :雪は降らないです。雪が降っても少量で大体曇ってます。土地によって変化がありますよね。自分がモチベーションなくなった時、実は自分のせいだけじゃなかったりして、天候のせいだったりとか。何が問題なのか冷静になって考えるようになりました。
小林 :ありがとうございます。ちょっと積もる話は山々なんですけれども、ここで 一旦質問の方を閉じたいと思います。
登壇者情報
▶︎小林 颯/hayate kobayashi
1995年北海道生まれ。ドイツ・ベルリン在住。
東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。公益財団法人江副記念リクルート財団 アート部門 リクルートスカラシップにより渡独。2024年にベルリン芸術大学大学院アートアンドメディア科修了。器として映像を捉え、自作の装置から新たな語りの形を探る。近作は、翻訳とアイデンティティの観点から、装置、映像、詩作を通じて、エクソフォニーと語りについて再考している。2020年制作の「灯すための装置」が第24回文化庁メディア芸術祭アート部門新人賞を受賞。Forbes 30 Under 30 Asia 2022 The Arts に選出された。
https://www.recruit-foundation.org/student/kobayashi_hayate/
▶︎大竹 紗央/Sao Ohtake
2000年愛知県生まれ。アメリカ・ニューヨーク在住。
アーティスト。シカゴ美術館附属美術大学にてFine Artsを修了。現在はニューヨーク大学大学院芸術学部 Interactive Telecommunications Programに在籍。作品にインタラクティブ性を持たせて、都市空間とそこに暮らす人々を紐帯することをテーマとした作品を制作。主な活動に、「東京オペラシティ リサイタルシリーズ B→C: 上野道明」にて演奏曲『Phoenix』にエレクトロニックインスタレーションアート提供 (東京、2022)、参加型インスタレーション『再生』をデトロイト美術館にて展示(デトロイト、2024)など。
https://www.recruit-foundation.org/student/ohtake/
▶︎上野 里紗/Risa Ueno
1997年福岡県生まれ。イギリス・ロンドン在住。
編み作家。ロンドン芸術大学 セントラル・セント・マーチンズで学士テキスタイルデザイン、修士Art & Scienceを修了。日常-衣食住を素材に、手引きとしての数学・科学とテキスタイル=考えを翻訳する道具を用いて作品制作する。LVMH Maison 0 / This Earth Awardショートリスト、MullenLowe Nova Award ノミネート(2023)。Interstice: Art & Science collectiveにて「Interstice」出版(2023)。
https://www.recruit-foundation.org/art/ueno_risa/
▶︎中岡 尚子/Hisako Nakaoka
1999年東京都出身。ドイツ・ベルリン在住。
人は音をどのように聴き、感得できるのかを考える。主にマイクロフォンやスピーカーを用いたサウンドインスタレーションやパフォーマンスを制作し、録音の作為を身体的に捉えようとする。近年は、私たちは誰かの他者であるという実感を音によって強めることに関心を持ち制作する。東京藝術大学音楽環境創造科卒業。ベルリン芸術大学Sound Studies and Sonic Arts (MA) に在学。
https://www.recruit-foundation.org/art/nakaoka/