2025/01/26

第30回リクルートスカラシップコンサート開催報告

2025/01/26

2024年12月21日(土)13:00開演 @紀尾井ホール

今年も留学先で研鑽を積みながら、国内外で活躍する江副記念リクルート財団の器楽部門の奨学生全員が一堂に会し、1年の成果を披露する第30回リクルートスカラシップコンサートが紀尾井ホールで開催されました。

今年は財団奨学生17名と特別出演の3名、計20名で6つの室内楽を披露する、まさに室内楽のフェスティバルのようなプログラム。12月の中旬からリハーサルが始まりましたが、個性溢れる同年代の才能ある若者が集まり、一つの音楽を創っていく過程そのものがドラマティックなものでした。

今年も出演者の素顔が垣間見えるようなインタビューやチームエピソード、卒業生の思い出を挟みながら、遠方から足を運べない方々にも楽しんでいただけるようライブ配信を行いました。

 

プログラム

I. モーツァルト/ピアノ四重奏曲 第2番 変ホ長調 KV493
戸澤采紀(Vn.)、石田紗樹(Vla.)、鳥羽咲音(Vc.)、重森光太郎(Pf.)
II. メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲 第1番 ニ短調 作品49
前田妃奈(Vn.)、佐藤晴真(Vc.)、牛田智大(Pf.)
III. シューマン/ピアノ四重奏曲 変ホ長調 作品47
MINAMI(Vn.)、田原綾子(Vla.)、北村 陽(Vc.)、谷 昂登(Pf.)
IV. ショスタコーヴィチ/ピアノ五重奏曲 ト短調 作品57
服部百音(1st Vn.)、辻彩奈(2nd Vn.)、鈴木慧悟(Vla.)、柴田花音(Vc.)、吉見友貴(Pf.)
V. ラフマニノフ/2台ピアノのための組曲 第2番 作品17
亀井聖矢(1st Pf.)、進藤実優(2nd Pf.)
VI. メンデルスゾーン/弦楽八重奏曲 変ホ長調 作品20
1st Quartet:辻彩奈(1st Vn.)、戸澤采紀(2nd Vn.)、鈴木慧悟(Vla.)、佐藤晴真(Vc.)
2nd Quartet:外村理紗(1st Vn.)、HIMARI(2nd Vn.)、石田紗樹(Vla.)、鳥羽咲音(Vc.)

企画・プロデュース:伊藤 恵  

 

開演の挨拶 年の開演の挨拶は亀井聖矢さん。「音楽観や信念が異なる個性溢れる若手が出会い、一つの音楽を創り上げていくのは難しくもあり、奇跡的な機会。合わせを重ねるごとにチームに個性が生まれてきます。ぶつかり合うこともありながらも共有しているのは「いい音楽を作りたい」という情熱。そういうスカラシップ生の音楽への情熱を受け取っていただけたら幸いです」と素晴らしい開演の挨拶で幕を開けました。

亀井聖矢さんによる開演の挨拶   演奏会の写真はすべて西野 正将(第34回奨学生)撮影

I. モーツァルト/ピアノ四重奏曲 第2番 変ホ長調 KV493
戸澤采紀(Vn.)、石田紗樹(Vla.)、鳥羽咲音(Vc.)重森光太郎(Pf.)

1曲目はモーツァルトのピアノ四重奏曲第2番。財団卒業生で今大活躍のピアニスト阪田知樹さんの解説によると、「小型のピアノ協奏曲とも呼ばれるようにピアノが主体的に書かれている」という。ピアニストは、このステージにいつか立ちたいと憧れていたという今年4月から財団の奨学生になったピアニストの重森光太郎さん。明るく溌溂と駆ける抜けるような旋律がコンサートの始まりを祝うかのような幕開けでした。

チェリストの鳥羽咲音さんは、「ピアノから弦楽器への受け渡しをどう表現するかを話し合ったりしながら、最終的に各楽器が自然に会話をしているような演奏にたどり着いたと思います。普段は違う場所で活動しているメンバーですが、音楽を通してつながりを感じる瞬間が何度もありました」と振り返りました。

戸澤采紀(ヴァイオリン)
石田紗樹(ヴィオラ)
鳥羽咲音(チェロ)
重森光太郎(ピアノ)

II. メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲 第1番 ニ短調 作品49
前田妃奈(Vn.)佐藤晴真(Vc.)牛田智大(Pf.)

2曲目は、当時モーツァルト以来の神童と呼ばれていたメンデルスゾーンによるピアノ三重奏曲第1番。財団奨学生で今は世界を飛び回る岡本侑也さんの曲解説によると「メンデルスゾーンは、わずか10代後半で彼の代表曲でもある弦楽八重奏や序曲『真夏の夜の夢』を書き上げるなど、周囲を驚かせるほど早熟な作曲家であった」という。

ヴァイオリニストは、ある著名なチェリストに「ヴィオリンを弾くために生まれてきたかのようだ」とうならせた前田妃奈さん。ピアニストの牛田智大さんは「なによりリハーサルから本番にいたるまで、お二人の深く美しい音と表情豊かなフレージングを間近で感じられて幸せでした」。そして、今回このメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番と、6曲目の同じくメンデルスゾーンの弦楽八重奏曲を弾いたチェリストの佐藤晴真さんは「共演した全員一人一人に輝いている瞬間があり、それをとても近くで見られたのが本当に良かった」と振り返りました。

牛田智大(ピアノ)
前田妃奈(ヴァイオリン)
佐藤晴真(チェロ)

III. シューマン/ピアノ四重奏曲 変ホ長調 作品47
MINAMI(Vn.)田原綾子(Vla.)北村 陽(Vc.)谷 昂登(Pf.)

阪田さんの解説によると「チェロが奏でる旋律が心に沁みる美しい第3楽章は、本作の白眉といえよう」とある。そのチェロパートを担当した北村陽さんは「言葉を使わずとも、呼吸やフレーズ、間などを感じ合えるメンバーだったので、リハーサルからとても幸せな時間でした。 本番では、4人で考えてきた世界を存分にお客様にお伝えし、共有できたのではと思います」と語っています。

ヴァイオリニストのMINAMIさんは「ホンワカ温かく、のんびりニコニコしたヒト大集合のチームでした。そして本番での私は、3人の輝かしい音楽性に包まれながら自由にのびのびと歌い上げることができたと思います。エモーショナルで品格あるシューマンピアノカルテットに仕上がったと自負しています」と語っています。シューマンの気品のある崇高なまでの美しい旋律が心に響き、心洗われる演奏でした。

MINAMI(ヴァイオリン)
谷昂登(ピアノ)
田原綾子(ヴィオラ)
北村陽(チェロ)

IV. ショスタコーヴィチ/ピアノ五重奏曲 ト短調 作品57
服部百音(1st Vn.)辻彩奈(2nd Vn.)、鈴木慧悟(Vla.)、柴田花音(Vc.)吉見友貴(Pf.)

シューマンの美しい旋律の余韻に浸っていると、一転して重厚な厳しさに覆われたショスタコーヴィチのピアノ5重奏曲が始まりました。岡本侑也さんの曲解説には「ショスタコーヴィチは20世紀を代表するソビエト連邦出身の作曲家である。当時、スターリン体制への忠誠を芸術分野でも示すよう圧力がかかっており、前衛的な作品を発表していたショスタコーヴィチは当局から痛烈な批判を受けることがあった。それにより幾度か命の危険にさらされることもあったが、このピアノ五重奏曲は、国家最高の栄誉であるスターリン賞を受賞している」とある。

服部百音さんは「メンバー全員の、ソリストのような気力、集中力、体力によって、ショスタコーヴィチの陰と陽の差が激しいこの曲の激しい音のやり取りを、強いエネルギーとして皆さんに感じていただけると幸いです」と語っています。リハーサルでも意見が激しくぶつかり合うこともあったようですが、最高の音楽を伝えたいという気持ちがあるからこそで、この曲の持つ奥深さ、複雑さ、重苦しさ、それでいて明るさも感じる感動的な演奏になりました。

服部百音(第1ヴァイオリン)
辻彩奈(第2ヴァイオリン)
鈴木慧悟(ヴィオラ)
柴田花音(チェロ)
吉見友貴(ピアノ)

V. ラフマニノフ/2台ピアノのための組曲 第2番 作品17
亀井聖矢(1st Pf.)進藤実優(2nd Pf.)

5曲目は、亀井聖矢さんと進藤実優さんによるラフマニノフの「2台ピアノのための組曲第2番作品17」。2台ピアノという贅沢なプログラムですが、リハーサルができる場所が限られています。お二人は奇しくも愛知県で同じ先生に師事していた同門。お二人の恩師杉浦日出夫先生にご挨拶に伺い、レッスンもして頂いたそうです。そして、本番当日も、亀井さんの開演の挨拶が終わった後、出番まで外の場所を借りて合わせをしていました。予定時刻を過ぎても戻って来ずハラハラしましたが、直前までできる限りの高みを目指すお二人の音楽に対する情熱に感銘を受けた出来事でした。

進藤さんは「この組曲は4つの異なるキャラクターからなる作品です。そのキャラクターの方向性を確認したり、自分たちののりやすいテンポの確認、イメージ作りを、何回も何回も亀井さんと話し合いました。本番では、2人で創り上げてきた音楽、そしてその場で直感的に感じた音楽をお伝えできたのではないかと思います」と振り返ります。楽譜だけを見ながら相談したり、お互いの演奏を聴き合いながら話し合ったり、一つの曲を様々な方向からとことん分析するお二人の姿も驚きでした。

亀井聖矢(第1ピアノ)
進藤実優(第2ピアノ)

VI. メンデルスゾーン/弦楽八重奏曲 変ホ長調 作品203
1st Quartet:辻彩奈(1st Vn.)戸澤采紀(2nd Vn.)、鈴木慧悟(Vla.)、佐藤晴真(Vc.)
2nd Quartet:外村理紗(1st Vn.)HIMARI(2nd Vn.)、石田紗樹(Vla.)、鳥羽咲音(Vc.)

岡本侑也さんの曲解説によると「この弦楽八重奏曲は、メンデルスゾーンがわずか16歳の時に作曲された。少年から青年へと成長途中の人物が書いたとは思えない、見事な完成度の作品である。当時、主な室内楽の編成と言えば、ピアノ三重奏や弦楽四重奏であったため、弦楽八重奏という形態はとても革新的であった」という。

ヴァイオリン奏者の外村理紗さんは「8人の音楽の捉え方はそれぞれ異なるけれど、それを集めて一つの音楽を創り上げていく過程がすごく楽しかった。リハーサルが進むにつれ、完成度がみるみる高まっていって、メンバーのレベルの高さを改めて感じました。皆さんに素晴らしい演奏をお届けできたと思います」と語っています。HIMARIさんは「練習したキャッチボールが色々できて、内声もいいなぁと思いながら演奏していました」と振り返りました。

HIMARI(ヴァイオリン)
外村理紗(ヴァイオリン)

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卒業生アンコール
今年度で財団を卒業する辻彩奈さん(ヴァイオリン)と佐藤晴真さん(チェロ)によるアンコール。曲はヘンデル=ハルヴォルセン: パッサカリア。大きな存在となっていたお二人による涙がこみ上げる演奏でした。

辻彩奈(ヴァイオリン) 佐藤晴真(チェロ)

カーテンコール 
これからの日本のクラシック界を背負っていくであろう才能あふれる若き音楽家たちです。これからもあたたかい応援をお願いいたします。
 

6曲プラスアンコールで4時間半近いコンサートでしたが、お客様が疲れて早くお帰りになるのではないかとの心配をよそに、ほとんどの方が最後まで楽しんでくださったようです。チーム構成、選曲、曲順など、伊藤恵先生による素晴らしいプログラミングや、伊藤恵先生と漆原朝子先生のリハーサルでのアドバイスを即座に活かす出演者たちの才能も驚きでした。6曲それぞれが個性的で輝いていて、最後は8人によるスケールの大きな演奏で締めくくり、花火大会のようなコンサートでした。

2025年は、12月25日(木)、東京オペラシティで開催予定です。お楽しみに♪♬

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演奏直後の満足そうな笑顔!

真剣なリハーサルの様子

配信でお送りしたインタビューの様子