最近まで卒業の実感があまり湧かない日々を過ごしておりましたが、この卒業レポートを書かせていただいて、ついにこの時が来てしまったと、しみじみ感じております。この9年間、どのような局面においても、温かく見守ってくださり応援してくださった江副記念リクルート財団の皆様には、感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。
大学一年生の時からミュンヘンに留学させていただきましたが、留学したいと思った主な理由は、クラシック音楽の本場の空気感を肌で感じながら勉強に励みたい、自分の殻を破って、さらに演奏の表現の幅を広げたい、そして広い世界を自分の目で見て、様々な体験をしていきたい、という思いからでした。
幸運なことに、私は留学前まで師事させていただきました山崎伸子先生に続いて、ミュンヘンでも素晴らしい先生方に恵まれました。
学部生の頃はウェン=シン・ヤン先生のレッスンを受講し、基礎を確固たるものにすること、曲の構造を理解すること、曲に対して何を感じているのかに目を向け、素直に音にしていく過程を学びました。大変面倒見の良い先生で、学部卒業後も色々なチャンスをくださり、心から感謝しております。
また、ミュンヘン音大に入学して間もなく、ご縁をいただきまして、プライベートでバイエルン州立歌劇場首席奏者のヤコブ・シュパーン先生に見ていただくことになりました。アウフタクトや裏拍からの音楽の感じ方、流れを重視したフレーズの大きな捉え方など、今まで自分に不足していた意識を、丁寧に根気強くご指導くださいました。
2017年、学部卒業直前に受けたエリザベート王妃国際音楽コンクールでは、それまで学んできたことを最大限に活かすことができたかなと思います。過去に経験した沢山の苦い失敗なども、プラスに変えることができました。コンクールでは当たり前のように完璧なテクニックを持ち、強く派手な個性を持ったコンテスタント達が参加されていましたが、そういう方々の中で、自分は果たしてどういう音楽家でありたいのか、原点を見つめ直すきっかけになりました。私は決して派手な演奏ができるタイプではありませんが、気負うことなく、舞台上でも素のまま、ありのままの自分で音楽を愉しみたい、お客さまとのコミュニケーションを大事にしたいと、この時強く思うようになりました。コンクール後も、行き詰まったかなと思った時には、この時の気持ちを思い出すようにしています。
コンクールでの入賞をきっかけに、大変有り難いことに大きな演奏会の機会もいただくようになりまして、その都度レパートリーが増えたり、すでに演奏経験のある曲をより深めていくことができたり、お陰様でとても充実しております。
大学院に進学してからは、ユリアン・シュテッケル先生に師事しました。以前から憧れていた演奏家の方だったのですが、楽譜に忠実な解釈や、細部までのニュアンスのこだわり、ソリストとしてのスケールの大きい表現力などを求められるレッスンで、自分にとって非常に刺激的なものでした。今後もシュテッケル先生に引き続き師事する予定です。
ドイツの中でも、ミュンヘンは比較的物価の高い街として知られております。この地での基本的な生活を含め、音大での充実した勉強、そして国内外での様々なマスタークラスへの参加、日本の演奏会のための度重なる帰国などが実現できたのも、江副記念リクルート財団の皆さまにお力添えいただいたお陰です。
まだしばらく留学を続けたいと思っておりますが、ヨーロッパに渡って習得したこと、体験したことを余すことなく今後のための糧とし、ソロ・室内楽共に活躍のできる演奏家を目指して引き続き精進していきたいと思います。
作曲家の思いに心を寄せつつ、自分も自然体で音楽を楽しむことができるよう、毎日を大切に過ごしたいと思います。
私は10歳までの幼少期をドイツで過ごし、小学校4年から高校3年生までを日本、そして再び18歳からドイツに渡ったのですが、小さい頃は意識して見ていなかったヨーロッパ人のダイナミックさ、そして日本人の繊細さと細やかさ、それぞれの長所と魅力に気付かされました。
ヨーロッパでは、強い主張や個性を持った方々が沢山いらっしゃいますが、音楽の場に限らず、色々な交流を通して、それまで自分の中で常識だと思っていた事柄を覆されることも沢山ありました。色々な価値観に触れて、自分の視野が多方面に広がったと思いますし、これは自分にとって非常に大きな財産になったと思います。
私が何か申し上げられる立場でもないのですが、江副記念リクルート財団の奨学生になって、
ご自分の夢に対する可能性がぐっと広がったことと思いますので、このチャンスを是非最大限に生かして欲しいなと思います。皆様素晴らしい方々ばかりで、毎年のスカラシップコンサートも本当に楽しく、大変大きな刺激を受けました。卒業してもまたコンサートなどでご一緒できる機会がありましたらとても嬉しいです!
最後のレポートだと思うと本当に寂しいです。江副記念リクルート財団の皆様、本当にありがとうございました。