森 ひかる
第47回生 東京オリンピック特別助成対象
●出場種目
7月30日│トランポリン
森ひかるさんは、江副記念リクルート財団の交流会で見かけたときの印象の通りとても明るい方で、インタビュー中も常に笑顔を見せてくれました。私自身も話している間、つい森さんにつられて笑顔になってしまっていたと思います。森さんは、周りにいる人に自然とポジティブなエネルギーを浴びせることができる、不思議な熱源を持っている方なのではないでしょうか。このインタビューでは、森さんの笑顔の理由や、それを支える人々との繋がりについて知ることができました。
【インタビュアー:アート部門48回生 合田 結内奈】
ロンドン大学ゴールドスミス校・デザイン学部所属。「コミュニケーション」を主なテーマとして、さまざまな分野のデザイン作品を制作する。
ーー個人的に、森ひかるさんといえば笑顔がとても印象的なのですが、心の持ち方や普段の考え方において心がけている事はあるのでしょうか。
森 : 自分としては、無理に笑おうとするのではなくて、ただ楽しいから笑っているというか…もちろん落ち込むときは思いっきり落ち込みますし、だからこそ逆に楽しいときや嬉しいときはそれだけ笑えるのかな、と思います。落ち込むときは落ち込み切って、楽しいときは笑い切る、というのが笑顔になれる秘訣なのかな。
ーー周りに、森ひかるさんのように感情を振り切るようにしている人はいらっしゃいますか?影響を受けていると思う人がいれば教えてください。
森 : そうだな…お母さんもよく笑っているんじゃないかなあ…
あとは、2019年の世界選手権前から2年位ほぼ同じメンバーでやっている、トランポリンの女子ナショナルチームですね。トランポリンって個人競技なんですけど、一緒にいてすごく楽しいですし、私が笑顔で過ごせる理由として「チーム力」っていうのは、すごくあると思います。
ーーチームの皆さんについて教えてください。
森 : 今まででベストなチームなんじゃないかって思うくらいみんな仲が良いです。誰かが調子が悪い時は他の誰かが支える、最高の仲間です。だからこそ、世界選手権の団体戦で優勝できたんだと思っていますくだらないことでも身の回りのことは何でも共有しますし、本当に楽しいです!
ーーコロナ禍で新たに取り入れたこと・変わったことはありますか。
森 : 私自身オリンピックが延期になって落ち込みました。誰にとっても初めての状況だったので、しばらくは何をしたら良いかわからなくなってしまいました。それでも、「今年を『あってよかった』と思える一年にしよう」と思い始めてからは少しずつ気持ちを切り替えることができました。その後も大会で失敗してしまったり、上手くいかないことがありましたが、その都度自分の中で取り組むテーマを決めて実施していくことで、自分自身が少しずつ強くなっていることを実感していきました。
ーーテーマを決めて成長を実感した、とありましたが、今年実際に取り組んだテーマや、具体的に成長したことがあれば教えてください。
森 : 気持ちの部分では、「苦しいときこそ成長できるチャンス」「全てが意味がないわけではない」と思えるようになったのが、自分では本当に成長したなと感じます。強くなった今の自分でオリンピックを迎えられる、と受けとめています。もちろん選手としても成長しましたが、人として成長できた1年でした。この1年ですごく感じたことは、自分はひとりではなくて、周りにはたくさん助けてくれる人がいる、ということです。落ち込んでいたときにもらった言葉が、ひとつひとつ心に沁みました。先生から「良い時もあれば、悪い時もあって当たり前」と教えていただいたり、他の選手、例えばスケートの紀平梨花選手の「9の悪いことより1のいいことに目を向ける」というインタビューに励まされたり。「こうなってしまったらこう思えばいい」というような、考え方の引き出しが増えたと思います。
ーー人との物理的な分断が多かった1年でしたが、コロナ禍でより一層、周りからの影響や、精神的な人との繋がりを感じたということでしょうか。
森 : 私はもともと友だちが大好きで、友だちと会えばどんなに疲れていても元気が出るぐらいで…。練習の仲間も大事にしています。私ひとりではここまで来れなかったですし、こんなには頑張れていません。凹んでしまったときも、仲間に「頑張れよ」って励ましてもらうからこそ頑張れる–そういう性格なんです。会えなくても、LINEや電話で力をもらいましたし、会えないからこそ滲み出てくる絆や感じられる力というのはあると思います。もともとそのように思ってはいましたが、さらに、たくさんの人の支える力を強く感じることができました。
ーー一番辛い/しんどい練習は何ですか?そんな時、どのようなことを思い、考えると頑張れる/乗り越えられるのでしょうか?
森 : そうですね…練習が大好きなタイプではないので…「あ〜今日も練習かあ」と思うときもあるんですけど、練習をし始めたらスイッチが入ります。意外とこう見えて完璧主義で、最後まやり切らないと納得できません。
そしてトランポリンはしっかり体を作るトレーニングもしないと成り立たない競技なんです。以前からトレーニングはトランポリン練習より嫌いだったので、「今日はいいや」とおざなりにしていた部分があったんです。でも、ナショナルチームのトレーナーさんに言われた「世界一の練習、世界一のトレーニングをしなさい」という言葉が、私の心に刺さりました。今ではトレーニングをしないという選択肢はありません。甘えさせてくれなかったからこそ怪我をしない体にもなれたし、良い結果にも繋がっているんじゃないか、と思います。
ーー「世界一の練習、世界一のトレーニングをしなさい」という言葉、非常に素敵ですね。
森 : これを初めて言ってもらったのがナショナルチーム合宿でした。「世界一の練習、世界一のトレーニングをできない人はこの場所から帰りなさい」と言われて、できないからすぐ帰りたいと本気で思ったくらいでした。でもやりきって、その後世界選手権で優勝できたときに、「私の練習は、世界一の練習、世界一のトレーニングだったんだ」と感謝しました。
ーートランポリンの本質とは何なのでしょうか。言い換えれば、トランポリンとは本質的に何を目指す競技なのでしょうか。個人的な見方を教えてください。
森 : ん〜、なんでしょう…。
応援してもらえると、自分は嬉しくて、頑張れる。応援してくれると私も嬉しい。私が頑張れると、応援してくれた人も嬉しい。ということは、すごく感じます。
答えになっているでしょうか…。
ーーつまり、競技を通しての人との繋がりや、感情の共有という事でしょうか。
森 : そうですね、演技で応援に恩返しができるというか。今少し調子を落としているんですけど…この悩みを聞いて応援してくれた方がいて。応援のおかげですごく元気が出て、なんとかうまく演技できた時に「今日はできた」とその方に報告したら、とても喜んでくれたんです。喜んでもらえると、私もまた嬉しくて…この循環があることは、とても幸せなことだな、と思いました。
ーー最後にオリンピックでの目標を教えてください!
森 : いろいろなことがありましたが、試練の山を乗り越えてここまで来れているので、自分としては「最高の舞台で最高の演技をする」ということが一番の目標です。本当にここまでたくさんの方が支えてくれたので、オリンピックという最高の舞台で最高の演技をすることで、感謝の気持ちを返せたらと思います。オリンピックは、自分が小学生の時からの目標でした。私にとっての最高の演技の場だと信じて跳びたいと思います。
森さんの笑顔は、常にそのとき・その瞬間を楽しむ力に由来しているように感じます。そして、それが周りに伝わって、その場のみんながつい笑ってしまう。森さんはトランポリンを通して喜びや嬉しさを共有できることに幸せを感じている、と話していましたが、それは森さん自身が持つこの特殊能力のような性格と結びついているのかもしれません。
私が森さんとお話できたのはインタビュー中の30分間という短い枠のみでしたが、対談後にはなんとなく親近感を感じられるようになり、薄いながらも森さんと繋がりを持てたことに心が弾みました。対談の影響でトランポリンという競技そのものに興味が湧いたので、オリンピックという「最高の舞台」での演技を見る前に、下調べをしてみたいと思います。記事をご覧の皆さまも、ぜひひかるさんの応援をよろしくお願いいたします!
(取材日:2021年6月30日 文:アート部門 合田 結内奈)
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