――将来の夢、そしてその夢や現在の学びの場所を目指したきっかけは?
私の将来の夢はクラシック音楽の魅力を日本をはじめ海外の多くの方に伝えていくことです。高校生の時のマリア・ジョアン・ピリス先生との出会いがきっかけで留学を決意し、高校を卒業した年に渡欧しました。初めの2年はベルギーのエリザベート王妃音楽院に在籍し、その後ピリス先生のスイスへのお引越しを機に、バーゼル音楽院に入学し、現在に至るまで先生のお知り合いであるクラウディオ・マルティネス・メーナー先生に師事しています。
――日常生活、生活環境について
日々の練習は基本的に学校でしています。予約は一日に2時間しかできないので、それ以外は空いている部屋を探すことになります。練習環境においてはそれほど恵まれているとは言えないかもしれませんが、それでもバーゼルで勉強したいと思う理由は、師事している先生の存在です。
メーナー先生には5年以上教えていただいていますが、とにかく楽譜の読み方と体の使い方や意識の仕方を徹底的に改善していただきました。とにかく基本に忠実という一言に尽きるのですが、音楽の三大要素であるリズム、メロディー、ハーモニーを過不足なく融合させていくということ。例えるならば、料理において仕込みの段階から加熱の仕方などの一つ一つが当たり前のようなことを積み重ねていくことで、プロの味につながるということだと思います。その基本があった上でどのように最終的な味付けをするかが個性であり、個性は自然に生まれるものだと思います。
メーナー先生は曲の構成、フレーズの意味合いや関係性など、楽譜からの情報をあらゆる角度から伝えてくださり、曲のスタイルを理解した上での奏者の自由を与えてくださるので、本当に素晴らしい指導者だと尊敬しています。
日本にいた時には、演奏に結び付けるための音楽理論が理論で完結してしまっているイメージでした。歴史に残っているほとんどの作曲家の作品では、基本から逸脱した部分が個性となり魅力につながっているので、音楽理論において基本の形を知ることの大事さを留学してから気が付きました。
――夢の達成に向けて、日々取り組んでいることや気を付けていること
クラシック音楽のピアノのために書かれた作品は数えきれないほどありますので、できる限り幅広く、様々なコンセプトを持った作品を学ぶように心がけています。
やりたい作曲家に焦点を当てて勉強することももちろん多くのことを学べると思いますが、全く別の分野と思っていた曲を勉強したことが、その作曲家の作品に戻ってきたときに新たな視点となり、奥深さに繋がることも実感しています。
ピアノを弾くということは身体を酷使するということも最近痛感しており、日々の全身のストレッチは欠かせません。また練習時間が多ければ良いというわけでもないので、頭を使って如何に無駄な時間を減らして効率的に進められるかということも意識しています。
――これから更に挑戦したいことや、1年間の抱負
この1年は協奏曲のレパートリーを大幅に増やそうと早速新曲に取り組んでいます。
今はコロナ禍による入国制限があるので欧州との行き来ではとても苦労しており、演奏会も海外の音楽家の代役としての出演も多く発生しています。私自身12月初旬には代役としてNHK交響楽団の定期演奏会に初めて出演させていただきましたが、こういった機会をいただけることは大変ありがたいことなので、いつでも短期間で演奏会に備えられるレパートリーを広げておきたいと思います。