今年の4月から財団の奨学生としてお迎えしたヴァイオリニストの戸澤采紀さんは、現在東京藝術大学音楽学部の1年生。11月23日(土)にトッパンホールで開かれたリサイタルの後、Q&Aに答えて下さいました。情熱に溢れ、前に、前に進もうとしているパワフルな戸澤さんの今がよく分かります。
Q1. 今日のプログラムは、戸澤さん自身が「聴く方も弾く方も大変な曲ばかり」と仰っていましたが、これらの曲を選んだ理由は何でしょうか。
A1. 今回のリサイタルは、私にとって1年を通しての大きな目標でもあったので、シューマンやシューベルトなど、人間的で深みのある表現を必要とする曲を勉強したいと思って、プログラムに組み込みました。後半のイザイとラヴェルは、もともと得意な分野の作曲家達ですが、技術にとどまらず、音楽的に魅せられるようになりたいとの思いから選びました。
Q2. オーケストラの中でヴァイオリンを弾きたい、というインタビュー記事を読んだことがあります。無伴奏、ソナタ、室内楽、オーケストラといろいろと演奏形態があると思いますが、オーケストラの中でヴァイオリンを弾きたいと思う理由は何でしょうか。
A2. オーケストラだけでなく、誰かと一緒に演奏する際に、相手が発信した音楽をキャッチして、それに何かしらのリアクションをし、相互作用で音楽を創っていく、という室内楽的な作業がとても好きです。オーケストラは、それらの最大形態だと思います。常にアンテナを張り巡らせ、繊細な表現に反応し合い、大勢の演奏家たちの奏でる音楽の波に乗ることが出来た瞬間には、物凄い快感と幸せを感じます。
Q3. 数ある楽器の中でもヴァイオリンを愛して止まない理由は何でしょうか。
A3. もちろんヴァイオリンは一番大好きですが、ピアノも好きですし、チェロも、クラリネットも、トロンボーンも好きです。偶然が重なって小さい頃手に取ったヴァイオリンですが、今は、私の中にある喜びや悲しみや葛藤を、最も自由に表現出来る手段がヴァイオリンなのだと思っています。
Q4. 今ヴァイオリンを日々練習する中で、具体的に目指しているのはどんなことでしょうか。
A4. 最近よく考えるのは、ヴィブラートの必要性です。ヴィブラートをかけて演奏するのが当たり前の時代ですが、その音には本当にそのヴィブラートが相応しいのか、速さや幅は適切か、そもそもヴィブラート無しで弾いた時に表現が足りているか、などいろんなことを考えて練習します。
楽譜と向き合ってソルフェージュをして、音楽的な無駄を排除していくと、たとえヴィブラートをかけたとしても、それがきちんと音楽やフレーズの一部として聴こえてくるはずです。そのような研究をしっかりして、表面的でない音色を追求したいです。
Q5. 留学したいと思っていらっしゃるそうですが、どの国で何を学びたいとお考えですか。
A5. ドイツに留学し、音楽大学に通いたいです。また、オーケストラアカデミーに入り学びたいと思っています。
Q6. どんな演奏家を理想としていますか。
A6. ソロ、室内楽、オーケストラ、どんな形態でもいい意味で適応し、それと共に自分の音楽を発信することのできる 演奏家になりたいです。また、いろんな先生からレッスンを受けて感じたことですが、言葉を使うのが上手な人になりたいです。言葉と音楽は密接な関係にあると思うので、最近とても大事だと思うようになりました。
Q7. ヴァイオリンを弾いていて壁にぶつかることはありましたか。そんな時はどうやって壁を乗り越えましたか。気分転換が必要な時は何をされますか。
A7. 昔は違ったかも知れませんが、今の私にとっては技術的に弾けないことよりも、音楽的にどう表現したらいいのか分からない、ということがとても辛く、悩むことは沢山あります。本当にどん底まで悩むと、もはや音自体を聴きたくなくなってしまいます。
高校生まではどんな壁にぶつかっても練習一筋で乗り越えてきましたが、大学生になってからは美術館に行ったり、本を沢山読んだりして心を休めます。睡眠食事も大切ですし、個人的には人と喋ることが大事だと思っています。そしてしばらくするとまた、好きなオーケストラ楽曲や室内楽曲を聴きたくなるので、音楽にパワーをもらって自分の練習に還元しています。
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戸澤さんの回答を読んで印象的だったのが「言葉と音楽は密接な関係にあると思うので、言葉を使うのが上手な人になりたいです。」という一文です。確かに、戸澤さんの回答は短いですが、無駄な言葉が無く、適切な言葉が使われ、伝えたいことがストレートに、突き刺すように伝わってきます。戸澤さんが言うように、言葉と音楽は密接な関係にあるのだとしたら、戸澤さんの音楽にも言葉に対する思いが反映されているように思えます。
終演後、聴きに来てくれた友達とわいわいおしゃべりしている戸澤さんは普通の女子大生のように見えましたが、今回の回答を読むと、戸澤さんの頭の中はまるで研究者のよう。どれだけの可能性を秘めているのか、その可能性をどこまで開花させていくのか、戸澤さんのこれからを追いかけていきたいと思います。