ーーまずは自己紹介をお願いします。これまでの経歴や、海外での生活経験、現在の日常生活などについて教えていただけますか?
初めまして、学術部門48回生の木村尚一朗です。現在はチューリッヒ工科大学(ETH)にてバイオテクノロジーの修士課程に在籍しています。学部時代はユニバーシティカレッジロンドン(UCL)にてバイオケミカルエンジニアリングを学んでいました。出身は東京ですが、父の海外転勤が理由でスイス、イギリスとシンガポールに在住した経験があります。趣味は天気のいい日にピクニックをすることと、家でひたすら自炊を極めることです。特に今住んでいるスイスのバーゼル市ではピクニックのしがいがある公園が多いので、ちょうど初夏あたりから友人たちとピクニックをしたりバーベキューをしたりと満喫しています。また、バーゼル市は比較的小さな都市でどこにでも歩いて行けるため、天気がよければよく散歩に出かけるようにしています。
ーー現在バイオテクノロジーを学んでいらっしゃいますが、具体的にどのようなことを研究されているのでしょうか?また、この分野を目指したきっかけは何だったのでしょうか?
現在学んでいるバイオテクノロジーという分野では大まかに言えば分子生物学を健康、農業や環境といった分野に応用する研究を行っています。その中でも僕が興味があるのは遺伝子治療といった分野で、何かしらの異常をもつ遺伝子を直接操作することによって遺伝子自体を治す治療のことを指します。例えば、何かしらの遺伝子の異常によって生産されるタンパク質の量が低い場合、従来の治療法ではそのタンパク質を一定期間ごとに体に入れる必要があります。ですが、遺伝子治療を使えば、異常のある遺伝子を一度治療することで疾患を治すことができます。各国が高齢化社会へと遷移していく中で医療現場の逼迫が起きており、医療従事者と患者両方の負担を減らすにはこういった一度で治せる治療法の確立が必要です。ですが、比較的新しい分野だということもあり、治療が患部へとしっかり届く方法や治療を安全に大量生産するといった最適化できる点が多くあります。このように「治療の受け方」の概念を変える可能性を秘めている技術をさらに最適化したい、と思ったのが目指したきっかけです。
ーー海外大学への進学は、いつ頃から意識し始めましたか?また、進学に向けてどのような準備をされましたか?
海外大学進学は帰国子女だったこともあり、海外大学に進むこと自体にあまり抵抗がなく、高校に入った頃から考え始めていました。自分の興味のあった分野を扱っている大学の中では海外大学の方がより応用の効いた授業を行っていることも海外大学を目指した大きな要因でした。大学進学への準備としては、高校在学中には大学受験にてどのような専攻科目を受けたいかを絞り、その科目に沿った授業に力を入れました。例としては、物理や化学といった理系の科目に注力し、化学の授業の延長としてエチル化反応の還流時間と目的物質の純度の関係に関する実験を行い、それをレポートにしました。また、ギャップイヤーの間には生物学に関する勉強を行い、興味のあった専攻科目の推薦図書を読んで準備しました。
ーー大学院進学を決める際に、特に重視されたポイントは何でしたか?また、進学に向けてどのような準備をされましたか?
大学院を選ぶ際に一番重視した点は修士課程の中でどれだけ「学ぶこと」に重点を置いているかでした。多少違う専攻科目出身だったということもあり、新しいことをたくさん学ぶ環境が整っている修士課程を探しました。また、修士課程中にこれから先のキャリアを見据えるためにもインターンシップやリサーチプロジェクトをプログラムの一環として含んでいることにも重きをおきました。また、これら二つのことをまとめて考えた時に、学ぶことにしっかりと時間をかけたいと思ったため比較的長めな二年間の修士課程を優先的に選ぶことにしました。大学院進学の準備としては各修士課程の中で講義を行っている教授の行っている研究内容を熟知するようにしました。しっかりと新しい研究内容を理解することでその学部がどのような研究分野に力を入れているかを知れるとともに、新しい研究と出会うことで自分の中で研究を行う上で使えるアプローチの数も増やすことができました。
ーーリクルートスカラシップへの応募を決めた理由を教えていただけますか?この奨学金のどのような点に魅力を感じられましたか?
リクルートスカラシップに応募した大きな理由はその非常に寛大な奨学金制度でした。返済不要の奨学金制度に加え、学費とは別に生活費の支給、27歳まで支援していただけるという至れり尽くせりな制度はとても魅力的でした。また、スカラシップ奨学生同士の交流も盛んに行っていることも意義深いと思います。学術のみならず、器楽、アートとスポーツといった幅広い分野との人と実際に交流する機会があるというのは滅多にないものなので、そこで何かしらの刺激を得ることに期待していました。
ーー財団の更新審査に向けて、どのような準備をされていますか?また、これまでの面接で特に印象に残っていることがあれば教えてください。
更新審査の際に一番気をつけていることは自分のやっていることをわかりやすく噛み砕いて説明することです。一年中自分のラボというミクロ環境の中でしか研究について話していないため、同じような研究をしてきている人に説明することに慣れてしまっていることを念頭に置きつつ、あまり研究に馴染みがない人に説明している、ということを常に意識するようにしています。特に修士論文などの研究をしているときはかなり専門的な用語が多くなり、日本語には適切には翻訳できないことも多くあるので、簡潔でありながらその用語をうまく説明したり、図解などを使ってわかりやすくなるように気を使っています。更新審査などの面接では、成績の維持を前提としながらも長期的な展望についての質問も多く、よくみてもらっているという印象を受けています。
ーー財団生として様々な交流やイベントに参加されたと思いますが、財団生であることのメリットや印象に残っている経験などについて教えていただけますか?
財団生である一番のメリットは前にも述べた通り、幅広い分野との交流の機会を得られることです。学術部門の他にも様々な分野の学生と交流する機会があることで、研究に大事なひらめきの部分をもらう機会も生まれます。また、ひらめきの部分以外でも、同じような年齢の奨学生が熱心に自分が何を成し得てきたかを説明することを目撃すると、その情熱に少なからず影響される部分がありますし、「自分も頑張ろう」と奮い立たせてくれます。個人的には少し競争があった方がやる気が出るので、このように他の奨学生と切磋琢磨できる環境を提供していただいているのは非常に大きなメリットだと感じています。
また、留学中は家族や日本の友人たちと離れているわけなので多少なりともホームシックになったり日本が恋しくなる時があるので、そういう時に同じような境遇の奨学生と交流することでちょっとした和みを与えてくれることにも感謝しています。
ーー大学院でどのような目標を達成したいとお考えですか?また、その先のキャリアプランについてお聞かせください。
大きな目標としては研究を通じて「治療の受け方」の概念を変えたいと考えています。前述した通り、遺伝子治療には一生治療を続けていけない病気や従来の治療法では治せなかった病気を一度で直せる可能性を秘めているので、この分野で引き続き研究を続けていくつもりです。具体的にはこの修士論文で何かしらの貢献を残せる研究を行い、それらを論文として発表し、卒業後にはこの分野で博士号取得を目指していくつもりです。これまで学問に専念できたのはリクルートスカラシップの支援のおかげですので、非常に感謝しています。これからも全力で遺伝子治療の研究に従事していくつもりです。
2025年度リクルートスカラシップ学術部門エントリー受付中(締切:2024年9月17日)
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