著者:妹尾武治(九州大学大学院 デザイン人間科学部門 知覚心理学講座 准教授)
世間一般に広まっている「吊り橋効果」を定義してみたい。高くて揺れる吊り橋を渡ると、ドキドキする、するとその後に見た女性が魅力的に感じる。なぜなら、吊り橋によって引き起こされたドキドキを、女性を見て感じたドキドキだと脳が勘違いを起こすからだ。この脳の勘違いによって、女性がより魅力的に見えるようになる。以上が、世間で広まっている、吊り橋効果の定義である。
1974年にダットンとアーロンによって発表された論文がこの吊り橋効果を初めて報告した論文である。被験者は18歳から35歳の85名の男性だった。実験場所はノース・バンクーバーのカピラノ川にかかっていた二つの橋が用いられた。一つは木製で、揺れがちな橋であり、橋から下の様子が透けて見えるものだった。橋は崖からの高さが69メートルにあった。一方で、統制条件の橋は、しっかり作ってあり、ほとんど揺れないもので、崖下からわずか3メートル上方にかかったものであった。
女性のインタビュアーが、橋の途中に立っていて、橋を通って来た被験者にアンケートをした。その女性は、アンケートの最後にその紙の一部を破いて、被験者に渡そうとした。そこには女性のものと推察される電話番号と名前が書いてあった。
結果である。揺れる吊り橋条件では、紙を受け取った男性被験者は23名中18名であった。このうち、実際に電話をして来た被験者は9名だった。統制条件の揺れない橋の場合、電話番号を受け取ったのは、22人中の16人であり、電話をかけてきたのはわずかに2名であった。
以上が、吊り橋実験についての科学的な説明である。少し科学的な表現をつかうと、我々は気分の高揚、ドキドキなどを、本来の原因となるもの以外に間違って帰属させてしまうことがある。これは、原因の「誤帰属」と言われるものである。揺れる吊り橋のドキドキを、異性の魅力に誤帰属させたということである。
いずれにしても、人間はドキドキ感を正しくその原因と結びつけることが出来ない側面があり、誤帰属することで、魅力度を誤解するのである。
仕事で同じプロジェクトに数ヶ月取り組むと、メンバーや上司の異性を好きになってしまうことがある。これは、仕事が進むことで得られる高揚感や、仕事で成功を収めた時の爽快感・満足感を、その異性に誤帰属してしまうことが原因であると言えるだろう。
もう一つ、「モテ」をコントロールする方法を紹介したい。「赤い服を着ている女性は魅力的に見える」という結論を導いた論文が、米ロチェスター大学の心理学者、アンドリュー・エリオット氏とダニエラ・ニエスタ氏によって、2008年に刊行された。実験では、女性の胸元から顔を写した写真で、背景を赤一色で塗りつぶしたものと、背景を白、緑、青、グレーで塗りつぶしたものを男性の被験者に提示して、魅力度を質問紙で測定するということを行った。どれくらい魅力的だったか?に点数をつけてもらったのである。その結果、赤の背景の時の女性の魅力度がその他の色の時よりも、ずっと高く評定されたのである。
このように心理学には、「モテ」を扱った実験も沢山存在する。「モテを科学する」、これも心理学の魅力の一つである。ちなみに、私は全くモテない。モテなさすぎて気絶したエピソードもあるが、それはまた別の機会に。