人工知能

著者:妹尾武治(九州大学大学院 デザイン人間科学部門 知覚心理学講座 准教授)

 

 

脳細胞一つ一つはシンプルな電気的な素子で、全てのアルゴリズムが理解されている。しかし、それが数千億個集まって、脳になると、何故心が生じるのかがまるでわからない。現在の脳科学では、一度に数億個の神経細胞の電気的なやり取りを記録し、それをコンピュータ上で再現出来る時代になった。しかし、彼らは今、完全につまずいている。そのデータをどう処理したら良いのかが、まるでわからないのだ。あるものは、電気的なやり取りのパターンに音色を割り振り、脳が奏でる音楽として発表したり、またあるものは、電気のやり取りを CG 化したりした。しかし、それらは脳が心を産むという謎については何ら新しい発見をなし得ていない。単純な素子が膨大な数集まることで、心というブラックボックスが生じるのである。

 

人工知能は、それが発展することでこのブラックボックスを言語化、命題化し、明確化出来る可能性を秘めていると60年代からつい最近に至るまで、そのように考えられて来た。しかし現在、人工知能も、知能が発展することで人間と同様のブラックボックスを産んでしまうことが次第に明らかになって来ている。

 

将棋の人工知能のポナンザは、2017年将棋界最高位である、名人佐藤天彦との対局に2局連続で完勝した。しかし、開発者の山本一成はもはやポナンザがなぜその一手を指したのかについて言語化することが不可能だと述べている。ポナンザは、ポナンザ同士での 700 万局の対局を経て、勝率がより高い一手を選ぶ。しかし、700 万局の棋譜がどう重み付けされて、なぜその一手になるのか? についてはもはや誰も明示的に言語化出来ないのだ。つまり、人工知能も突き詰めていくと、結局ブラックボックスにぶつかってしまうのだ。

 

コンピュータも電気的な素子一つ一つを見れば、極めて単純であるが、知能の形 として精度が上がるほど、ブラックボックスを抱えてしまうのだ。 だから、将来今よりも優れたデータベースと、優れた処理速度のコンピュータを使って、完全な人工知能が出来たとして、その人工知能が自らの口で「私には意識がある」と言ったとしても、その人工知能の意識の源泉が何なのか?どういうロジックで意識が成立しているのかは、コンピュータを分解してもわからないだろう。これは 1714年時点で既に、ライプニッツという科学者が指摘していたことだ。

 

『ものを考えたり、感じたり、知覚したりできる仕掛けの機械があるとする。その機械全体を同じ割合で拡大し、風車小屋の中にでも入るようにその中に入ってみたとする。だがその場合、機械の内部を探って、目に映るものと言えば、部分部分が互いに動かしあっている姿だけで、表象について説明するに足るものは決して発見できない。』(モナドロジーより)

 

押井守監督の『攻殻機動隊』における、「人形使い」や、古くは『2001年宇宙の旅』におけるコンピュータ「HAL」は、まさにこのことを予見していたと言えそうだ(上記作品、未見の方は是非一度ご視聴あれ)。つまり、意識とか知能といったものは、結局人間にはアクセスし得ないなにがしかで、作れることはあっても、それを言語化、明示化は出来ないのだ。それが出来るのは神のみなのかもしれない。

 

テーマの一つが、「心理学、実験中!」。

心理学とは、人の心を明らかにすること。 現実世界とバーチャルな世界、主観世界と物理世界、生と死。 私たちはこれらの対極的な世界の狭間、 二つが作る「渚」をさまよいながら行き来する冒険者だと言えます。 この世界はどうやって出来てきたのか? この世の面白さを、アートとあなたの心を通して見ていきます。

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